ローカル鉄道40社を訪ねる「鉄印帳」が大ヒット 「集めたい」心を捉える仕掛け杉山淳一の「週刊鉄道経済」(4/5 ページ)

» 2020年08月21日 07時00分 公開
[杉山淳一ITmedia]

あらゆる趣味は「採集」「狩猟」「栽培」で成り立つ

 人類に限らず、動物が生きていくためには食べる必要がある。常に食べ物を獲得したい。その方法は主に、果実などを集める「採集」と、魚や動物を獲る「狩猟」だ。自然任せでは食べ物を得られないときもある。だから採集と狩猟の延長に保存や貯蓄があり、計画的に食料を得るための「栽培」が始まる。農耕や養殖だ。つまり、人類にとって「採集」「狩猟」「栽培」は食べ物を獲得する本能といえる。

 ところが、物々交換から貨幣経済が始まると、「採集」「狩猟」「栽培」をしなくても食べ物を獲得できるようになった。集団生活を始めると役割分担ができる。歴史を俯瞰すれば、商人、領主、殿様といった立場ができて、彼らは自ら食べ物を獲得しなくても生きていける。しかし、人間としての「採集」「狩猟」「栽培」の本能は残っている。その意欲を発散させたい。そこで本能の代償行為として「趣味」が生まれた。

 コレクション趣味は「採集」本能を満足させる。釣りやハンティングは「狩猟」そのものだ。獲物を獲得する行為と「写真撮影」も似ている。シャッターを押す行為を「ショット」という。狩猟用語である。「栽培」は「作る趣味、育てる趣味」全般に相当する。

 鉄道趣味で言えば、鉄印帳のほか、きっぷや駅弁の掛け紙集め、スタンプ集めは「採集」である。撮り鉄は「狩猟」、鉄道模型作りは「栽培」だ。では私のような「乗り鉄」はどこに分類されるかといえば「採集」だと思う。行ったことがない路線に乗りたい。違う季節の車窓を見たい。乗った路線を地図で塗りつぶしたい。博物館巡りにも似ている。採集対象はモノだけではない。これはいわば「経験・体験」のコレクションだ。

 ゲームも同様だ。アイテムを集め、敵を狙い撃ち、街を作る。ヒットするゲームのほとんどは、「採集」「狩猟」「栽培」のそれぞれの本能を刺激する。集めると楽しい。狩ると楽しい。育てると楽しい。そして2つの要素を組み合わせると熱中度が高まる。古い例えだけど『シムシティ』は街を栽培するゲームとして大ヒットした。シューティングゲームは言うに及ばず。『Age of Empires』や『StarCraft』は資源を集め、拠点を作り、敵を狩るという3要素が全て入っている。

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