D2Cは、中小企業やベンチャー企業など、十分な販路を自前では持ちにくかった企業にとって魅力的な仕組みである。一方で、オムニチャネルについては、すでにオフラインで店舗を持つ企業がオンライン店舗を持つとともに、それらを管理統合する場合が多い。
当然、異なるチャネルを管理統合することは容易ではないが、例えばセブン&アイ・ホールディングスが推進してきた「オムニ7」などは代表的な試みだろう。オムニ7では、ネットで注文し、セブン‐イレブン店舗で受け取ることや、アマゾンや楽天と同じように自宅まで発送してもらうことが簡単に選択できる。あるいは、オムニ7よりもうまく進んでいるようにみえるのはヨドバシカメラのヨドバシ.comである。店頭での受け取りはもちろん、配送サービス「ヨドバシエクストリーム」まで手掛けており、ワンストップでサービスを提供することで利便性を高めている。
ただ、D2Cにせよオムニチャネルにせよ、多くの企業はまだ従来的な流通政策の延長線上にあるものとして運用しているのが現状だ。デジタルの発展によって、オンライン店舗の利用や複数のチャネルを連携を推し進めているケースがほとんどで、出前館やヨドバシ.comのように配送まで手掛けることもあまりない。そこまで徹底する意義があるかどうかはともかく、ウーバーイーツのような顧客の参加による共同活性化政策まで後一歩であるといえる。
シェアリングサービスを中心とした共同活性化政策の広がりは、デジタルを利用した新しいビジネスというだけではなく、消費者側の意識の変化とも関係している。
すなわち、大量生産・大量消費からの脱却であり、本当に必要なものを長く利用し、消費者間で交換したり、必要に応じてシェアしようという考え方の台頭である。こうした考え方は、しばしばシェアリングエコノミーと呼ばれる。今回紹介してきたようなサービスは、それ自体が画期的な仕組みであるが、同時に今日の人々の自動車や家を必要なときに貸し出したり、自分で持たずとも必要なときに利用できたりすればいいという意識に対応しているといえる。
日本では、メルカリの流行もまたこうしたシェアリングエコノミーの一つの現れとして捉えられる。フリーマーケット自体は昔から存在していたが、今のような大規模で恒常的に利用可能なサービスではなかった。メルカリは、フリーマーケットの場所をネット上に移し、見知らぬ第三者同士が安全に取引し、商品をやりとりできる仕組みを作り上げていった。誰もが気に入ったものを購入することはもちろん、逆に不要になったものを気軽に出品し、商品を売ることができる。
メルカリはもちろん、例えば「minne」のようなアプリになると、ハンドメイド製品が販売されて人気となっている。一般のユーザーが自分でものを作って販売できるわけであり、こうしたプラットフォームでは、すでに見た共創政策(顧客が生産に関わる)ことや、通貨政策(顧客が値決めに関わる)ことも同時に行われていることが分かる。このように、デジタル時代における消費者の意識の変化は、マーケティング・ミックスのそれぞれの政策とも強く結び付いているのだ。
東京都立大学 経済経営学部 教授
2000年に神戸大学経営学部卒業、2005年に同経営学研究科博士後期課程修了、博士(商学)。2005年から首都大学東京(現東京都立大学)、2019年から経済経営学部教授。専門はマーケティング、デジタル・マーケティング。主な著書として、『ソーシャルメディア・マーケティング』(単著、日経文庫、2018年)、『マーケティングをつかむ 新版』(共著、有斐閣、2018年)、『「本質直観」のすすめ。』(単著、東洋経済新報社、2014年)、『新しい公共・非営利のマーケティング』(共編著、碩学舎、2013年)、『ネット・リテラシー』(共著、白桃書房、2013年)など。
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