マーケティング・シンカ論

デジタルで「4P」はどう変わる 価格の流動化と“新通貨”登場で新たに脚光を浴びる2つのビジネスモデルとは?「新時代」のマーケティング教室(1/4 ページ)

» 2020年09月09日 05時00分 公開
[水越康介ITmedia]
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デジタル時代のマーケティング・ミックス

 製品政策、価格政策、流通政策、そしてプロモーション政策の4つを、対象となる顧客に合わせて組み合わせるフレームワークをマーケティング・ミックス(4P)と呼ぶ。マーケティング・ミックスは、各要素の組み合わせの理論であるとともに、それぞれの要素が個別の研究領域と結び付きながら独自に発展を遂げてきた。

 デジタル時代におけるマーケティングを考えるときも、マーケティング・ミックスは役に立つ。これまでも紹介したように、デジタル時代におけるマーケティングは、「顧客の参加」を大きな特徴とする。マーケティング4.0では、製品政策は共創政策へ、価格政策は通貨政策へ、流通政策は共同活性化政策へ、そしてプロモーション政策はコミュニケーション政策へと形を変える。前回の共創政策に引き続き、今回は通貨政策を考えよう。

「価格(Price)」政策は「通貨(Currency)」政策へ変わりつつある(出所:ゲッティイメージズ)

通貨政策、2つの特徴

 従来のマーケティングにおける価格政策では、企業主導による価格の決定が重要な問題だった。一方、昨今のデジタル化により、「価格(Price)」政策から「通貨(Currency)」政策へのアップデートが起こりつつある。通貨政策により、価格の決定を柔軟にし、より顧客の需要に合わせたWTP(Willing to Pay)の支払いも可能になってきている。

 価格政策がアップデートされた通貨政策という言葉は、為替レートを連想させる比喩としての意味と、近年日本でも急速に利用が広まっている電子通貨や仮想通貨の2つを想起させる。一般的には前者の意味合いがより強いが、それぞれ見てみよう。

 まず、為替レートについては、日々刻々と変化する点に特徴がある。2国間(まさに、企業と顧客)の関係にとどまらず、例えば米国と中国の関係悪化が懸念されれば、即座にドルが安くなるとともに円が買われることになる。これをマーケティングに当てはめると、ネットオークションや、あるいはタクシーのシェアリングサービスであるUberのサージプライシングなどが典型的である。たくさんの人が欲すれば価格はすぐに上がり、逆にいなければすぐに下がる、ということだ。

 通貨政策がもう一つ意味するのはSuicaやPayPay、あるいはビットコインのような新しい形の「通貨そのもの」の登場である。これらは少額決済やグローバルな取引において利便性を発揮する。さらに今では、新型コロナ流行予防として、直接触る必要がないという電子の性格そのものも新たな利便性として期待されるようになっている。

 企業のマーケティング政策において、支払い方法をどのように構築するのかは実は隠れた課題である。例えば、現金よりもクレジットカードの方が支払う際の心理的な負担感は軽いだろう。価格をいくらにするかだけではなく、支払い方法にまで目を向け、心理的コストを引き下げることには意味があるということだ。

一方的な値決めでなく、需給を見極めた政策が求められる(出所:ゲッティイメージズ)
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