ダイナミックプライシングとともに、デジタルの発達によって注目を集めるようになったのはサブスクリプションモデルである。省略されてサブスクとも呼ばれるが、いわゆる月額課金であり、定額制にせよ従量制にせよこの仕組みも昔から存在していた。しかしながら、iTunesにみる音楽やAdobeのアプリケーションのようなデジタル財が定額課金の仕組みを整えるようになったことにより、にわかに注目を集めるようになった。
その後、今ではブリヂストンやミシュランが進めるタイヤのリトレッド交換や走行距離に対応したサービス、トヨタなどが自動車サービス、さらにはパナソニックもテレビのサブスクサービスを始めるなどしている。ただし、人々はモノに関して「所有したい」という欲求も強く、企業にとってもモノの管理は大きなコストになる。特に業務用のリースではなく一般顧客向けのサービスという場合には、どこまでサブスクリプションが有効なのかはチャレンジングな試みとなるだろう。
まず、企業がサブスクリプションを導入するという場合には収益に対する認識を変える必要がある。ビジネスの仕組みそのものが、売り切りから、顧客との継続的な取引関係を前提とした仕組みに変わるからである。
サブスクリプションの先駆者であるAdobeも、サブスクリプションの導入に際し、しばらくの間収益の悪化に耐えなければならなかった。当然、社内から反対の声や疑問の声も上がった。しかし、実際に顧客が継続的に利用するようになるにつれ、これまでとは異なり長期的な収益の見込みが立てられるようになっていったとされる。
このようにサブスクリプションモデルは、うまく仕組みとして安定してくれば短期的な売上拡大を狙ったキャンペーンや値引きではなく、顧客満足の向上を見据えたより本質的なマーケティング施策に資源を回すことができるようになる。
サブスクリプションモデルにせよ、先のダイナミックプライシングにせよ、通貨政策という点で求められることは、繰り返しになるがデジタル時代における顧客の参加を見据えることである。1回だけの購買や売り切りのビジネスではなく、顧客の継続的な利用に焦点を当てることがより重要になってくるということだ。
東京都立大学 経済経営学部 教授
2000年に神戸大学経営学部卒業、2005年に同経営学研究科博士後期課程修了、博士(商学)。2005年から首都大学東京(現東京都立大学)、2019年から経済経営学部教授。専門はマーケティング、デジタル・マーケティング。主な著書として、『ソーシャルメディア・マーケティング』(単著、日経文庫、2018年)、『マーケティングをつかむ 新版』(共著、有斐閣、2018年)、『「本質直観」のすすめ。』(単著、東洋経済新報社、2014年)、『新しい公共・非営利のマーケティング』(共編著、碩学舎、2013年)、『ネット・リテラシー』(共著、白桃書房、2013年)など。
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