自前主義が普通だった金融業界で、さまざまな機能のサービス化が進んでいる。証券の売買機能をサービスとして提供したり、保険の設計機能を切り出してサービス化したりといった具合だ。
そんな中、金融サービスの本丸である与信と融資機能をサービスとして提供することを目指しているのが、Crezit(東京都港区)だ。もとGEでファイナンス業務に従事していた矢部寿明氏が、2019年3月に創業した。「Credit as a Service(クレジット アズ ア サービス)、与信に必要な機能を外部に提供することを目指している」と、矢部氏は話す。
矢部氏の問題意識は、世の中の在り方が変化している中、消費者向け金融の仕組みが以前から変わっておらず、適切なサービスを提供できないということにある。
終身雇用が崩壊し、フリーランスやギグワーカーなど働き方が多様化してきても、与信の方法は変わっていない。どこで働いているか、どの組織に所属しているかといったことが判断基準だ。「これまでの与信は、高度経済成長期に終身雇用制を背景にして働く人が増え、その人たちであれば貸しても取りっぱぐれないという前提で成り立ってきた。これが変わりつつある」(矢部氏)
矢部氏自身、学生時代にカードの支払いを3カ月を超えて延滞してしまい、クレジットカードが作れなくなったという実体験がある。部屋を借りようとしても、家賃の保証機関の審査にも落ちてしまう。大手企業で働き定期的な給与があってもこうだ。独立起業した今はさらに与信が厳しくなる。
「なぜ既存の金融機関はクレジットカードを発行できないのか。先方が私の情報を持っていないから。与信の審査に反映されない」(矢部氏)
一方で、EC事業者や携帯電話事業者など、非金融企業の金融事業への参入が増加してきている。こうした企業は、多くの顧客を抱え、属性情報だけでなく、どこで何を買ったかといった情報など、金融機関が持たない顧客の情報を保有している。これらの情報を使えば、昔ながらの金融機関が与信でNGと判断した場合でも、融資できるのではないか?
実際に、メルカリはメルカリ内での行動や売買データをもとに独自の与信モデルを作り上げた。「メルペイスマート払い」は、メルカリ内での行動データをもとに、ユーザーごとにいくらまで貸し出せるか上限金額を計算。現金がなくてもメルカリ内での買い物やメルペイを使った店舗での買い物を可能にした。利用した分は翌月に返済する。
北米では、11年ころから個人向け融資の市場が急激に拡大し、18年までにユーザー数や貸付残高が2倍の規模にふくらんだ。この拡大部分の多くが、既存の金融機関ではなくフィンテック企業やテクノロジー企業によるサービスだ。日本でもこの動きは始まりつつあり、矢部氏はここに勝機があると見る。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR注目記事ランキング