JR東日本がトヨタと組む「燃料電池電車」 “水素で動く車両”を目指す歴史と戦略杉山淳一の「週刊鉄道経済」(5/5 ページ)

» 2020年10月16日 07時00分 公開
[杉山淳一ITmedia]
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2050年のゼロエミッションを目指して

 興味深いことは、JR東日本が燃料電池車両の報道資料の末尾で「JR東日本グループ全体で2050年度CO2排出量『実質ゼロ』に挑戦します」と宣言している。これに関しては2日後の10月8日に正式な報道資料が公開された。

JR東日本のゼロカーボンへの取り組み(出典:JR東日本報道資料

 JR東日本は川崎に火力発電所があり、電車や駅の電力の一部を自家調達している。これを水素発電に切り替える。風力発電など再生可能エネルギー発電も増やす。新潟県十日町の水力発電は資料には記載されていないけれど、水力は再生エネルギーに入らないか、あるいは微妙な問題があるせいだろうか(関連記事)。

 エネルギーの消費側としては、非電化区間の鉄道車両の電力化、グループ会社が保有するバスの燃料電池化がある。しかし、ゼロにするためには、保線用の車両やトラックも燃料電池に切り替える必要がある。あと30年でそれを達成すると意気込む。いや、達成しなくてはいけない。

 15年のパリ協定(第21回気候変動枠組条約締約国会議)に署名した国々はCO2の削減目標を掲げており、英国やEUの一部は2050年までに実質排出量ゼロを法制化した。日本も50年までに80%削減し、その後速やかにゼロを目指す。JR東日本はその実現のために先頭を走ると宣言したわけだ。その手札の1つが「水素エネルギー社会」である。

JR東日本の電車の動力「本命」は水素エネルギーだった(出典:JR東日本報道資料

 JR東日本は非電化区間について「ハイブリッド気動車」「燃料電池電車」「蓄電池電車」「電気式気動車」という幅広い選択肢を持った。それはちょうど、トヨタ自動車がゼロエミッションの過程として「ハイブリッド」「PHEV」「EV」「燃料電池」を用意した過程に似ている。今すぐに正解を決めない。今できることは全てやる。しかしゴールはゼロエミッションだ。この流れについてトヨタとJR東日本はよく似た考えを持っている。

 航空機製造大手のエアバスも水素燃料の航空機を2035年までに実用化すると発表した。そういえば水素燃料はロケットエンジンから始まっている。エネルギーを中心に据えれば、線路、道路、空路の連携が今まで以上に必要になる。別件で何度も書いているけれども、交通インフラについて、縦割り行政を解消した統合的なデザインが必要だ。

杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)

乗り鉄。書き鉄。1967年東京都生まれ。年齢=鉄道趣味歴。信州大学経済学部卒。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。出版社アスキーにてPC雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年よりフリーライター。IT・ゲーム系ライターを経て、現在は鉄道分野で活動。鉄旅オブザイヤー選考委員。著書に『(ゲームソフト)A列車で行こうシリーズ公式ガイドブック(KADOKAWA)』『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。(幻冬舎)』『列車ダイヤから鉄道を楽しむ方法(河出書房新社)』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」。


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