人口減は予測できたのに、なぜ百貨店は増えていったのかスピン経済の歩き方(5/5 ページ)

» 2020年10月20日 09時10分 公開
[窪田順生ITmedia]
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百貨店は復活するのか

 これまでそういうことをいうと、「いや、商圏が狭まっているからもっと出店しても大丈夫だ」とか「人口が減っても核家族が増えているから賃貸利用者が増える」とか「郵便局がないとお年寄りが困る」とかいろいろな理屈をつけて、「数」を増やしてきた。

 しかし、その結果がこれだ。昭和からビジネスモデルを変えず、周囲の変化にも対応しないまま、ただ店舗数を増やしてきた百貨店も残念ながらこれらの業界と同じ問題を抱えている。それは裏を返せば、これらの業界に共通する「建てたら儲かる」という拡大路線の呪いから解放されれば、まだまだ勝負できる余地があることでもある。

 アマゾンが実店舗を持っているように結局、小売は「リアル店舗」での人間同士のやり取りが必ず必要になる。テクノロジーが進化すればするほど反比例で、その「価値」は上がっていく。それを踏まえると、百貨店の最大の強みは品ぞろえではなく、「客」である。

 百貨店には「外商」をはじめとして、金払いが浮世離れしたような「上客」がまだ山ほどいらっしゃる。彼らと濃密な関係を築いていることが、百貨店の最大の強みである。

 一部の百貨店がやっていた「外国人観光客専用のフロアをつくってウハウハだ」というのは、別に百貨店でなくてもできる話だ。幅広い層に受けるようにするのではなく、百貨店に価値を感じて、その空間に訪れることを楽しみにしている層にターゲットを絞っていく。店舗数をもっと減らして、百貨店だけの強みに特化していくのだ。

 「百貨店大閉店時代」はこれまでだましだましでやってきた、百貨店の問題と向き合ういい機会でもある。この危機を乗り越えて、これまでのように「数」に頼らない、「新しい時代の百貨店」が誕生することを期待したい。

窪田順生氏のプロフィール:

 テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経て現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌へ寄稿する傍ら、報道対策アドバイザーとしても活動。これまで300件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行う。

 近著に愛国報道の問題点を検証した『「愛国」という名の亡国論 「日本人すごい」が日本をダメにする』(さくら舎)。このほか、本連載の人気記事をまとめた『バカ売れ法則大全』(共著/SBクリエイティブ)、『スピンドクター "モミ消しのプロ"が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)など。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。


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