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新規事業が生まれ、育つカルチャーをつくる NECの挑戦リテンションにつながるプロセス評価(1/3 ページ)

» 2020年10月23日 07時00分 公開
[リクルートワークス研究所]
photo 北瀬聖光氏(NEC コーポレート・エグゼクティブ)

 企業内に蓄積されるデータを活用した課題解決を加速するためにデータ分析プロセスをAIによって自動化するソフトウェアを開発・販売するドットデータを米国に設立。海外企業との共創によりAI創薬事業を立ち上げる。このようにNECは、カーブアウトやオープンイノベーションといった外との共創の仕組みによる新規事業開発に積極的だ。

 その立役者が、同社コーポレート・エグゼクティブの北瀬聖光氏だ。北瀬氏は、同社の新規事業開発を行うビジネスイノベーションユニット(以下、BIU)と、同社の新規事業開発の専門職種であるビジネスデザイン職種の人材育成責任者、そして2020年9月に設立されたばかりの事業会社、金融、アカデミアの連携により共創型R&Dから新事業を創出する新会社BIRD INITIATIVEのCEOという3つの立場で、NECグループの価値の最大化を目指している。

リクルートワークス研究所『Works』

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 『Works』は「人事が変われば、社会が変わる」を提唱する人事プロフェッショナルのための研究雑誌です。

               

 本記事は『Works』162号(2020年10月発行)「グループ全体を成長に導く人事の3社の実例」より「Case3 新規事業が生まれ、育つカルチャーをつくる/NEC」を一部編集の上、転載したものです。


新規事業が育ちにくい環境を変えていく

 BIUは2013年、現・同社代表取締役執行役員兼CEOの新野隆氏によって立ち上げられた組織である。「世界に広がるNECの研究所と連携し、将来の同社の柱となる成長領域の探索と事業開発を担います。NECグループとしてのポートフォリオを常に意識し、現業の強みから売上利益の最大化を目指す事業部の一方で、成長事業の創出も非常に重要です。後者を担うのがBIUなのです」と、北瀬氏は説明する。

 新規事業を全て社外事業化することが目的ではない。「NECでできることはNECでやればいい。しかし、NECだけでは実現が難しい事業には、資金、人材、ナレッジやケイパビリティなど、外部資本を積極的に投入していこう、というのが基本的な考え方です」(北瀬氏)

 同時に、巨大企業であるNECには、ほかの大手企業もそうであるように新規事業が育ちにくい傾向がある。人事制度などの社内のルールや、承認プロセスの複雑性などによるスピードの遅さがその主たる原因である。「その1つの解決策が、新規事業を外に出すこと」(北瀬氏)だというのだ。

 「既存事業と新規事業ではそもそもKPIが異なるので、同じ組織内でのマネジメントは困難。また、新規事業を生み出すにあたって多くの企業が『カルチャーを変えたい』と言うのですが、そのためには単に意識改革だけではなくて、ルール、つまり会社でいえば採用基準や評価制度を変えなければ、人が新規事業開発へと真に生き生きと向き合うようにはなりません。ですから、NEC全体のカルチャーを変えるためにも、新規事業においてはキャリア採用の自由度の拡張、契約書の見直しなど、大幅な“規制緩和”を行いました」(北瀬氏)

新規事業はグループの価値の最大化だという大原則

 前述のドットデータは、同社におけるカーブアウトの画期的な事例の一つだ。日本発のAI技術としてはじめて、独立系調査会社による機械学習自動化ソリューションの「業界リーダー認定」を受けるなど、高い評価を得ている。

 「一般的にカーブアウトさせるのは、本業ではない事業が多いのですが、ドットデータの技術はNECの“ど真ん中”の技術であり、CEOに就任した藤巻遼平は、NECの主席研究員に最年少で就任した経歴を持つエース的な人材でした。そんな事業、そんな人をカーブアウトさせたのは、NECの製品開発プロセスでは事業化まであまりに時間がかかること、市場の中心であるシリコンバレーで技術や事業に磨きをかけるべきと判断したからです」(北瀬氏)

 もちろん、カーブアウトさせるには経営陣とのぶつかり合いもあった。

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