――AIカメラの真の狙いは何か?
Webの世界では、サイトのどの部分にユーザーがどのくらい滞在して、結果としてどのくらいコンバージョンしたかが分かるのは当たり前だ。一方のリアル店舗ではまだまだ「〜だろう」というレベルでの可視化しかできていない。せっかく頑張って売り場作りをしても当然ながらそこに人が通らなければ購買はされない。売り場や商品を見たのに買われなかったのか、そもそも人が通らなかったのかによって、改善の打ち手は変わってくる。そこを可視化することには大きな価値がある。
購買における顧客動向としては、非計画購買が7割以上といわれており、リアル店舗の強みは非計画購買を意図的に増やしていけることにある。ECもかなり一般化してきた一方、購買全体のボリュームから見ると全体の3割の中で市場の奪い合いをしているにすぎない。リアルの部分をしっかりデジタル化していくことで、その宝の山を掘り当てられると思っている。
――店舗のデジタル化は、競合他社でも取り組んでいるのでは。
取り組んでいる企業も当然ある。だが、どこもPoC(コンセプトとしての取り組み)止まりが多く、全店導入を見据えた本格的な施策としては進んでいないのが実情だ。特に導入のハードルとなるのはコスト面で、一般的な小売企業が1店舗に掛けられる運営コストは多くのデジタル企業が考えているほど高くない。
AWLとの共同ソリューションでもそこは強く意識していて、1店舗当たり月額2万円程度まで運営コストを下げている。既存の防犯カメラをネットワーキングしてエンジンと結合するのがAWLのアプローチで、ハードとしてのカメラを新規に導入する必要がない。さらにクラウド型でなくエッジ型のデータ処理を行うことでコスト抑制を図っている。
また、店舗のデジタル化を推進するときにボトルネックになることが多いのがPOSシステムだ。多くの小売企業では、ハードとソフトがセットになった大手企業のPOSシステムを導入している。一方で当社はPOSシステムを自社で開発した。今期に予定している基幹システムのリプレースと合わせて、本格的に店舗のデジタル化を推進する体制を整えている。
――サツドラの新社屋移転に伴って、北8条店の2階の全フロア(3057平米)をインキュベーションオフィスとしてさまざまな企業や地域の人が利用できるようにした。北海道新聞社も社内にコワーキングスペース「SAPPORO Incubation Hub Drive」を作ってスタートアップの交流の場にしているが、それよりもかなり大きく道内でも最大の規模感だ。ここまで盛大に一般開放する狙いは。
新しい文化を自社だけに閉じた状態で作っていくのは難しいというのが私の考えだ。この新社屋のインキュベーションオフィス(EZOHUB SAPPORO)を、コラボレーションが増長する場にしていきたい。AWLをはじめとしたスタートアップ企業をシェアオフィスに入れ、9月にデジタルハリウッドと提携して誘致した起業家・エンジニア養成スクール「G’s ACADEMY UNIT_SAPPORO 」の拠点にもする。イベントスペースでさまざまなイベントを開催すれば地域の人たちも集まってくる。
昔から小売業界は、オフィスをコストセンターとして捉えがちだった。逆に私たちは新社屋を次のイノベーションを起こすためのプロフィットセンターと位置付けている。1階が実験店舗、2階がインキュベーションオフィス、3階が本社という構造だから、今まで小売業だけに携わってきたサツドラ社員にとっては戸惑うことや違和感も多いと思う。だが3階に通勤する本社のスタッフたちがこのインキュベーションオフィスに来て異文化の集団に触れ、違和感をどんどん生んでいくことが重要なのだ。多様性のある文化を作っていくためのツールとしてこの場を使っていきたい。
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