だから、多くのアパレルは苦戦することにスピン経済の歩き方(6/6 ページ)

» 2020年11月03日 08時56分 公開
[窪田順生ITmedia]
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大量に「在庫処分」されるビジネスモデル

 アマゾンが猛威を振るって壊滅的な被害を受けた米国の小売業界では、生き残る術として「モノを売らない店」が増えている。リアル店舗は商品を手に取って試着などをするショールームに過ぎず、在庫も持たない。すべてネットで販売をするのだ。

 このようなスタイルだと「店内をにぎやかにするため」というムダな品ぞろえが格段に減る。ということは、在庫も減る。この「大量生産で余ったらセールでさばく」というビジネスモデルからの脱却は、コロナ禍でさらに加速している。

 日本でも「丸井グループ」がデジタルネイティブストアを掲げ、中期経営計画では24年3月期までに、これまでの物販型のテナント面積を減らして、現在は8%を占めるD2Cブランドのショールーム型、ブランド体験型のテナントなどを25%まで増やしていくという。

 オーダーメイドスーツの「FABRIC TOKYO(ファブリックトウキョウ)」もリアル店舗は採寸やコーディネートの提案などしかしない。リアル店舗大国ニッポンでも、デジタル化の波を受けて徐々にではあるが、「モノを売らない店」が増えてきている。

 しかし、大阪の住民投票でも明らかになったように、われわれの社会は高齢化が進んでいるので現状維持を望む声が圧倒的に多くなる。これまでのやり方では遅かれ早かれ破綻するので、今のうちに時代の変化に合わせてシステムを変えていかなくていけない、と聞いても「でも、今は問題なくまわっているじゃないか」と今現在の受けている恩恵や便利さを手放せない。その傾向は、年齢を重ねて「先」が見えてきたほど強くなる。

 そのような意味では、サステナブルだ、D2Cだ、RaaSだ、なんてバズワードだけが一過性で盛り上がるだけで結局、リアル店舗が増え続ける可能性も高い。アパレルがバタバタ倒れて店舗は激減しても、今度は在庫処分で安売りをする店舗が増える、なんて笑えない事態も起きそうだ。

 リアル店舗大国ニッポンが、これまで通りに「持続」できるのかどうか注目したい。

窪田順生氏のプロフィール:

 テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経て現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌へ寄稿する傍ら、報道対策アドバイザーとしても活動。これまで300件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行う。

 近著に愛国報道の問題点を検証した『「愛国」という名の亡国論 「日本人すごい」が日本をダメにする』(さくら舎)。このほか、本連載の人気記事をまとめた『バカ売れ法則大全』(共著/SBクリエイティブ)、『スピンドクター "モミ消しのプロ"が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)など。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。


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