企業は、労働者に対して安全配慮義務を負っており(労働契約法5条)、労働者が長時間労働により健康を害さないよう配慮する義務があります。例えば、副業・兼業を認めた労働者が長時間労働であり身体に負荷がかかっていることを認識しながら、何らの配慮をしないまま、労働者の健康に支障が生じた場合などは同義務違反に問われる可能性があります。
この点について、ガイドラインにおいて、長時間労働等によって労務提供上の支障がある場合には、副業・兼業を禁止または制限できることとしておくことや、副業・兼業の状況について労働者からの報告等により把握し、労働者の健康状態に問題が認められた場合には適切な措置を講ずること等を講じる例が示されています。
副業・兼業の運用や労働者の健康管理を適切に行うため、企業としては、労働者からの申告等により副業・兼業の内容を確認しておくべきです。そのためには、社内ルールに届け出制を定めるなどして、副業・兼業先に関する所定の事項を労働者から届け出させる仕組みを整えておくことが望ましいといえます。
どのような事項を届け出されるかという点について、ガイドラインでは以下のものをあげていますので、これらを参考に確認内容を確定しておくとよいでしょう。
労働者から確認する事項
労働時間通算の対象となる場合には、併せて次の事項について確認し、おのおのの使用者と労働者との間で合意しておくことが望ましい。
(厚生労働省「副業・兼業の促進に関するガイドライン(平成30年1月策定・令和2年9月改定)」から)
上記のような届け出は、労働時間の通算においても重要な意味を持ちます。すなわち、労働時間の通算方法について、ガイドラインでは、自らの事業場における労働時間と労働者からの申告等により把握した他の使⽤者の事業場における労働時間とを通算することによって行うという考え方が示されました。労働者自身からの申告等をベースに労働時間を把握することを基本としている点は重要なポイントといえます。
このほかガイドラインでは、労働時間の申告等や通算管理の負担を軽減する方法として、「管理モデル」というものも紹介されています。
この「管理モデル」は、副業・兼業の開始前に、A社(先契約)の法定外労働時間とB社(後契約)の労働時間とで調整を行い、労働時間について上限規制(単月100時間未満、複数月平均80時間以内)の範囲内でそれぞれ上限を設定し、それぞれについて割増賃金を支払うというものです。副業・兼業の開始後は、他社の実労働時間を把握しなくても労働基準法を順守することが可能となります。
なお、導入にあたっては労働者に対してA社(先契約)が管理モデルによることを求め、労働者および労働者を通じてB社(後契約)が応じるなど、関係者間での事前調整が必要となります。
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