在宅勤務者であることとの関係で特に気を付けなければならないのは、副業・兼業先での労働実態の把握だけではなく、本業先においても在宅勤務中の労働時間管理をきちんと行わなければ意味がないという点です。
また、在宅勤務を取り入れている場合、在宅勤務者に対する管理者の目が行き届かなくなりがちです。そのため懸念されるのは、社員が勤務時間中に副業・兼業を行ってしまうケースです。社員は、当然ながら勤務時間中は当該企業の職務に専念する義務を負っていますので、勤務時間中に副業・兼業を行った場合にはこの義務に抵触することになります。
このような問題を防ぐために在宅勤務時の労務管理を適切な方法で行うことはもちろんですが、副業・兼業先の所定労働日や所定労働時間などを社員にきちんと申告してもらう、一定の違反があった場合には副業・兼業を禁止しまたは制限することができる旨を就業規則や労働契約等にあらかじめ規定しておくなどの措置を講じておく必要があります。
労働者災害補償保険法において、労働者保護のための有利な法改正があったことも実務上チェックしておく必要があります(「雇用保険法等の一部を改正する法律(令和2年法律第14号)」)。
令和2年9月1日以降、労災保険の給付額や労災認定の際の負荷の判断方法が変わります。具体的には、労災保険の給付額について、これまでは災害が発生した勤務先の賃金額のみを基礎に給付額等が決められていましたが、改正により全ての勤務先の賃金額を合算した額を基礎に給付額等を決められることになります。また、労災認定の判断においても、複数の勤務先がある場合、全ての勤務先の労働時間やストレス等を総合的に評価して行うようになります。
副業・兼業先での労働内容については、なかなか使用者側で把握が困難なため、労働者からの申告等により労働契約の内容な実態を把握していく必要があります。また、在宅勤務者からの副業・兼業の申し出である場合には、自社における在宅勤務時の労務管理を適切な方法で行うこともより大切になります。
ただし、労働基準法が適用されない場合(フリーランス等)や労働基準法は適用されるが労働時間規制が適用されない場合(管理監督者(労働基準法41条2号)にあたる場合等)には、労働時間の通算の規制からは除外されます。
弁護士(杜若経営法律事務所所属)。2015年慶應義塾⼤学⼤学院法務研究科卒業、2016年弁護⼠登録(第一東京弁護士会)。これまで解雇訴訟やハラスメント訴訟、団体交渉拒否・不誠実団体交渉救済申立事件など、さまざまな労働事件について使用者側の代理人弁護士として対応。経営法曹会議会員(使用者側の労働問題を扱う弁護士団体)。
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