北海道新幹線「函館駅乗り入れ」の価値とは? 80億円で実現可能、道内経済に効果杉山淳一の「週刊鉄道経済」(6/6 ページ)

» 2020年11月20日 07時00分 公開
[杉山淳一ITmedia]
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並行在来線と合わせて処理する

 この計画は整備新幹線とは別の枠組みとする必要がある。整備新幹線計画にのせれば国の支援が受けられるけれど、実現はリニア中央新幹線全通、北陸新幹線全通、長崎新幹線フル規格全通の後になる。待てない。それでは財源はどうするか。

 最も実現性が高い方法は、この区間を運行する並行在来線会社が工事費を負担し、新幹線車両用線路としてJR北海道に貸し付ける。つまり、線路収入を得るための投資と考える。工事費の財源は、国の地方鉄道に対する支援制度を活用し、国、北海道および函館市が手当てする。並行在来線会社の負担分はJR北海道から得られる貸付料を担保として民間から借り入れる。

 北海道新幹線札幌延伸区間の並行在来線については、その枠組みの検討が始まったばかりだ。JR北海道は2010年5月に函館〜小樽間、支線の通称藤城線、砂原線も含めて経営分離すると決めた。函館〜新函館北斗間についてはJR北海道による運行を求める動きがあったけれども、結果的には経営分離が決まった。ただし、分離後については北海道新幹線並行在来線対策協議会の議論が続いており、道南いさりび鉄道が引き受けるか否かも含めて受け皿会社の設立には至っていない。

 貨物列車が運行する五稜郭〜長万部間は並行在来線として存続せざるを得ない。五稜郭〜函館間は道南いさりび鉄道が運行しているため、道南いさりび鉄道に移管する案が有力だ。長万部〜小樽間については存廃も含めた議論が行われている。自治体によっては、並行在来線を廃止して踏切を解消し、区画整理をしたいという意向もあると聞く。

 並行在来線問題の枠組みが決まっていない今だからこそ、並行在来線の在り方として、函館直通線を検討したらいい。JR北海道は新函館北斗〜札幌間の約212キロを時速320キロで走行するために、約120億円の工事費を負担する。これによる所要時間短縮は約5分だ。それに比べると、函館直通線の約10分短縮、乗り換え解消のための約80億円は妥当である。

 函館直通線をJRの線路にすると、JR北海道の負担が増える。これ以上のJR北海道への要求は難しいだろう。むしろ在来線として作り、新幹線の収益から貸付料をいただく形の方が理解されやすい。まずは北海道が、道内経済のための函館〜札幌間の直結の価値を認めること。そして本州〜函館間については、JR東日本が価値を認めて後押ししてくれること。この2つのチカラが、函館直通線を実現する鍵だと思う。

JR北海道は厳しい財務状況ながら北海道新幹線高速化に投資する。北海道新幹線の成功が自立経営の根幹となるからだ

杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)

乗り鉄。書き鉄。1967年東京都生まれ。年齢=鉄道趣味歴。信州大学経済学部卒。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。出版社アスキーにてPC雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年よりフリーライター。IT・ゲーム系ライターを経て、現在は鉄道分野で活動。鉄旅オブザイヤー選考委員。著書に『(ゲームソフト)A列車で行こうシリーズ公式ガイドブック(KADOKAWA)』『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。(幻冬舎)』『列車ダイヤから鉄道を楽しむ方法(河出書房新社)』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」。


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