飲み会自粛の要請を無視した社員がコロナに罹患──正しい人事の対応は?Q&Aと解説(1/2 ページ)

» 2020年11月30日 07時00分 公開
[BUSINESS LAWYERS]

本記事は、BUSINESS LAWYERS「飲み会自粛の要請を無視して新型コロナに罹患した従業員への対応」(岸田 鑑彦弁護士/2020年10月20日掲載)を、ITmedia ビジネスオンライン編集部で一部編集の上、転載したものです。

 Q 当社では、新型コロナウイルス感染予防の観点から3人以上での夜の飲食を控えるように要請していました。ところが当社従業員6人が仕事終わりに居酒屋とカラオケに行き、その後、参加者の中から新型コロナウイルス陽性者が数名出てしまいました。しかも当初、従業員は「飲み会はしていない」とウソの報告をしていました。このような従業員に対して処分等はできるのでしょうか。

 A 私生活上の行為であっても、会社の社会的信用性や企業秩序に影響を与えるような場合は注意指導することはできますが、人格を否定するような注意指導は避けてください。また、新型コロナウイルスに感染したという結果の責任を問うのではなく、夜の飲み会を控えるように要請していたのに従わなかったという行為や会社の調査に対して虚偽の事実を報告したという行為を問題にして注意指導すべきです。

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解説

1.私生活上の行為に対する注意指導の可否

 新型コロナウイルス感染予防の観点から、夜の飲み会等を自粛するよう従業員に通達している企業が多くあると聞きます。

 本来、仕事から離れた私生活の領域においては、基本的に従業員本人の自由であり、会社が細かく指示することはできません。仕事終わりの私的な飲み会についても同様で、本来は会社が細かく指示すべきことがらではありません。

 もっとも、私生活上の行為であっても、その行為によって会社の社会的信用性や企業秩序を低下させたり、会社に損害を与えたりしたような場合は、注意指導や懲戒処分等の対象になり得ます。例えば、従業員が休みの日に刑事事件を起こし、報道がなされて会社名などが明らかになったような場合などです。

 「社員・従業員が新型コロナに感染した際の労務対応チェックリスト– 初動から対外的発表まで」で解説した通り、従業員の新型コロナウイルスへの感染がわかった場合、会社は、濃厚接触者の特定、濃厚接触者への自宅待機などの指示、社内の消毒の実施、社内社外への報告、場合によってはその他の従業員の出社制限や営業そのものの停止といったさまざまな対応を迫られます。

 従って、新型コロナウイルス感染予防や企業防衛の観点から、夜の飲み会を自粛するよう要請することは業務上必要であり許容されると考えます。また、病院など院内感染により多大な影響を及ぼすような業種においては、場合によっては要請にとどまらず、業務命令として夜の飲み会をしないよう指示する必要性もあるのではないかと考えます。

2.結果ではなく行為を問題にする

 カラオケボックスなどの一定の空間において複数名が同時に感染したというように、感染場所が推定できる場合もありますが、「いつ、どこで感染したか」が明確に特定できない場合もあります。従って、従業員に対する注意指導の対象は、新型コロナウイルスに感染したという結果の責任を問うのではなく、夜の飲み会を控えるように指示していたのに従わなかったという行為や会社の調査に対して虚偽の事実を報告したという行為を問題にして注意指導すべきです。

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