飲み会自粛の要請を無視した社員がコロナに罹患──正しい人事の対応は?Q&Aと解説(2/2 ページ)

» 2020年11月30日 07時00分 公開
[BUSINESS LAWYERS]
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 では、注意指導するとして懲戒処分までを検討すべきでしょうか。あくまで私生活上での問題であること、夜の飲み会を控えるようにとの要請にとどまること、新型コロナウイルス感染やその後の社内感染までの責任(因果関係)を問えるか否かは微妙な問題です。そのため、飲み会を実施した者の役職、頻度、内容、理由、会社からの聴取に対して虚偽の報告をしたか否か等を総合して、厳重注意にとどめるか、懲戒処分を行ったとしても譴責(けんせき)などの軽めの処分で反省を促すことが望ましいと考えます。なお、病院など多大な影響を及ぼすような業種において、かかる業務指示に違反したという場合には、上記の事情を考慮し、要請にとどまる場合よりもやや重い懲戒処分を検討すべき場合もあろうかと思います。

 また、会社からの聴取に対して虚偽の報告をするなど、悪質な事案では、人事考課や賞与査定の際の考慮要素とすることも検討すべきです(この事案だけで賞与を大幅に減額すると、査定の妥当性の問題に発展するため、あくまで一要素にとどめるべきです)。

3.注意指導の方法を間違えない

 このような事案において問題になるのは、注意指導の方法です。例えば、社内の一斉メールで固有名詞を出して非難したり、「こんな時期に飲み会を開くなんて人としてどうかと思う」「神経を疑う」などの個人の人格を否定するような発言をしてしまうと、注意指導の必要性があったとしても、別途、注意指導の方法が不適切であったとの指摘を受ける可能性があります。あくまで問題となった行為について注意指導を行うこと、個別に注意指導すること、社内に対しては抽象的にそのような夜の飲み会を控えるようあらためて周知徹底するという対応を心掛けてください。

4.まとめ

 新型コロナウイルス感染予防は、従業員一人一人の心掛けと会社の予防対策の徹底にかかっています。会社も、従業員が夜の飲み会を実施していたことや、そこで新型コロナウイルス感染者が出たという結果を責めてしまいがちですが、本稿で説明した通り適切に注意指導を行い、さらなる感染予防の周知徹底を行っていただければと思います。

岸田 鑑彦弁護士 杜若経営法律事務所

杜若経営法律事務所パートナー弁護士。慶應義塾大学法学部法律学科卒業。平成21年弁護士登録、杜若経営法律事務所(旧 狩野・岡・向井法律事務所)入所。経営法曹会議会員。企業人事担当者向け、社会保険労務士向けの研修講師を多数務めるほか、「ビジネスガイド」(日本法令)、「先見労務管理」(労働調査会)、労働新聞社など数多くの労働関連紙誌に寄稿。著書「労務トラブルの初動対応と解決のテクニック」(日本法令)。

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