運賃「往復1万円」はアリか? 世界基準で見直す“富士山を登る鉄道”の価値杉山淳一の「週刊鉄道経済」(3/5 ページ)

» 2020年12月04日 07時00分 公開
[杉山淳一ITmedia]

 例えば、スイスのインタラーケン・オスト駅とユングフラウヨッホ駅間の登山鉄道を乗り継ぐと片道で約100スイスフラン(12月3日現在、約1万1680円)。日本の旅行サイト「HIS」などでは往復2万2600円〜2万8700円で案内されている。時期により価格が変わり、ユーレイルパスなど各種フリーパス向け割引がある。インタラーケン・オスト駅とユングフラウヨッホ駅は約35キロで、富士山頂と同程度の海抜3454メートルに達する。料金は富士山登山鉄道の約2〜3倍だ。ラック(歯車式)鉄道など保守に手間のかかる技術を使っているとはいえ、そこは利用者には関係ない。約100スイスフランは受け入れられているということだ。

 日本国内ではどうか。黒部峡谷鉄道は宇奈月〜欅平間で20.1キロ。往復3960円。この運賃で相場感を持つと、富士山登山鉄道の往復1万円は高く感じる。しかし、公共交通機関で結ぶ山岳観光ルートとして、立山黒部アルペンルートがある。富山県側の立山駅から黒部ダム経由で長野県側の信濃大町駅まで、距離は55.2キロ。片道料金は大人1人9820円だ。少し範囲を広げて、電鉄富山駅と長野駅で計算すると1万2460円になる。

 富士山登山鉄道構想は、立山黒部アルペンルートの相場感で料金を想定し「これでもユングフラウの半分だ。国際観光地の競争力も持てる」という運賃を設定したのかもしれない。ここまで視野を広げると、なるほど富士山往復1万円は高くない。むしろ日本一の霊峰富士山に対して「高い、もっと安くしろ」とは失礼な気がしてきた。あと1万〜2万円を追加で払っていいから富士山頂まで延伸してもらいたいくらいだ。

 そんな「料金の高み」から下を見れば、むしろ現在の富士スバルラインの通行料金は安すぎる。排気ガスをまき散らすクルマが安易に立ち入れないような、環境料金込みの価格設定が必要ではないか。

富士山5合目の風景

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.