社員が新型コロナ濃厚接触者でも慌てない! 休業・自宅待機中の賃金や補償の判断基準(1/3 ページ)

» 2020年12月08日 07時00分 公開
[BUSINESS LAWYERS]

本記事は、BUSINESS LAWYERS「社員・従業員本人や家族の新型コロナ感染疑い 企業が検討・実施すべきポイント - 賃金・補償・予防を中心に 新型コロナ労務対応の基本(後編)」(岸田鑑彦弁護士/2020年5月21日掲載)を、ITmedia ビジネスオンライン編集部で一部編集の上、転載したものです。

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1.はじめに

 新型コロナウイルス感染拡大に関連して企業が想定すべきこと、対応すべきことは多岐にわたり、企業の業種、規模、所在地、休業要請の有無、新型コロナウイルス感染者の有無などによってもその内容は変わってきます。

 本稿では、企業の従業員等が新型コロナウイルスに感染した際に発生する各種問題のうち、休業・自宅待機中の賃金の取扱い、発熱・咳等の症状がある(感染の疑いのある)従業員への対応方法、感染予防と企業の責任について解説していきます。なお、新型コロナウイルスに感染した従業員への対応、濃厚接触者の特定、その他の従業員への対応、対外的発表の実務のポイントについては、前編「従業員が新型コロナに感染した際の労務対応チェックリスト -初動から対外的発表まで」を参照してください。

2.休業・自宅待機中の賃金の取扱い

 新型コロナウイルスに関連した賃金の取扱いについては、さまざまなパターンが考えられます。そのため、まずは法律の原則的な考え方を押さえたうえで、会社の体力、従業員の生活、助成金の活用等も踏まえたうえで、会社の取るべき措置、方針を決めることになります。

2-1.まず普段通りに仕事ができる健康状態であるか

 雇用契約は、労働者が雇用契約の本旨に従った労務提供を行うこと、それに対して雇い主が賃金を払うことが主な内容になります。雇用契約の本旨に従った労務提供を行うことで、はじめて賃金請求権が発生します。雇用契約の本旨に従った労務提供、言い換えれば普段通りに仕事ができる健康状態での労務提供がなければ、賃金を請求することができません。

2-2.(普段通りに仕事ができる健康状態にある場合)休業する・させることが不可抗力によるものか

 普段通りに仕事ができる健康状態にあるにもかかわらず、企業から自宅待機を命じられた場合に従業員は賃金を請求できるのでしょうか。普段通りに仕事ができる健康状態にあるのですから、本来であれば、従業員は賃金を請求できます。もっとも、自宅待機を命じる理由が不可抗力であれば、賃金を請求することはできません。

 人の力ではどうにもならない場合を不可抗力といいますが、現在の民法の仕組みでは不可抗力により従業員が仕事を行うことができない(債務を履行できない)場合は、会社は賃金の支払いを拒むことができます(民法536条1項)。反対に不可抗力ではない理由で「債権者(会社を指します)の責めに帰すべき事由によって」仕事ができない場合は、会社は賃金の支払いを拒むことはできません(民法536条2項)。「債権者の責めに帰すべき事由によって」とは「故意・過失および信義則上これと同視しうべき事由によって」と解釈されていて、今回の新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けた休業については、会社の故意・過失はなく民法536条2項の適用がない場合が通常です。

 また、労働基準法26条も同じような規定を設けていて「使用者の責に帰すべき事由」により休業する場合は、使用者は労働基準法26条により平均賃金の6割以上を休業手当として支払う義務を負います。労働基準法26条で定める「使用者の責に帰すべき事由」は、賃金請求権が発生する場合より広く、不可抗力を除いて、使用者側に起因する経営、管理上の障害も含まれます。今回の新型コロナウイルス感染拡大に伴う休業について、ほとんどの事例ではこの労働基準法26条の適用が問題になります。

2-3.(普段通りに仕事ができる健康状態にない場合)健康に支障を生じた理由は業務に関連したものか?

 新型コロナウイルスへの感染が業務または通勤に起因して発症したものであると認められる場合には、労災保険給付の対象となり得ます。例えば、院内感染により医療従事者が新型コロナウイルスに感染している事例など、感染ルートがはっきりするものについては、業務上災害と判断される可能性もあります。なお、企業の新型コロナウイルスへの対応や管理体制の不備によって感染が拡大した場合等については、企業の安全配慮義務違反の問題に発展する可能性があります。

 また、業務に関連したものでない場合であっても、要件を満たせば、各保険者から傷病手当金が支給されることになります。具体的には、療養のために労務に服することができなくなった日から起算して3日を経過した日から、直近12カ月の平均の標準報酬日額の3分の2について、傷病手当金により補償されます

 上記2−1から2−3を前提にして、新型コロナウイルス感染者の賃金(前編「従業員が新型コロナに感染した際の労務対応チェックリスト -初動から対外的発表まで」3の3−2参照)、濃厚接触者の賃金(前編4の4−3参照)、一斉休業等によるその他の従業員への賃金(前編5の5−3参照)、感染が疑われる者への賃金(下記3の3−2参照)の結論が変わってきます。

photo 休業補償の要否の判断基準
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