社員が新型コロナ濃厚接触者でも慌てない! 休業・自宅待機中の賃金や補償の判断基準(2/3 ページ)

» 2020年12月08日 07時00分 公開
[BUSINESS LAWYERS]

3.発熱・咳等の症状がある(感染の疑いのある)従業員への対応方法

3-1.基本的には安静にしてもらう

 厚生労働省の「新型コロナウイルスに関するQ&A(労働者の方向け)」においても、「発熱などの風邪の症状があるときは、会社を休んでいただくよう呼びかけております。休んでいただくことはご本人のためにもなりますし、感染拡大の防止にもつながる大切な行動です」(※1)とあります。従って、このような症状がある場合には会社としても出社を控えてもらうように伝えます。

(※1)厚生労働省「新型コロナウイルスに関するQ&A(労働者の方向け)令和2年5月8日時点版」 風邪の症状があるとき、感染が疑われるときの対応 問1(2020年5月11日最終閲覧) ↩︎

3-2具体的な対応

 企業が従業員に安静にしてもらうように勧め、従業員が大事をとって休むことになれば、従業員が自主的に休むことになるため、通常の病欠と同様に取り扱うことになります。この場合、企業は賃金を支払う義務はありません

 ただ、例えば発熱などの症状があることのみをもって一律に従業員に休んでもらう措置をとる場合のように、使用者の自主的な判断で休業させる場合は、一般的には「使用者の責に帰すべき事由による休業」に当てはまり、休業手当を支払う必要があります。従って、従業員の症状に応じて対応を検討しなければなりません。

(1)実際に普段通りに仕事をできる状態にない場合

 すでに高熱が出ていたり、倦怠感がある場合など、従業員が普段通りに仕事をできる健康状態にない場合には、従業員の側でも有給休暇や病気休暇をとって休むことが多いと思われます。しかし、従業員が休暇をとらない場合には、企業は自宅待機を命じるべきです。この場合、従業員は仕事をできる状態にはないため、企業は賃金を支払う義務はありません。

(2)普段通りに仕事をできる状態であるものの、感染を疑わせる事情がある場合

 他方、微熱や少々の咳があっても、普段通りに仕事をできる健康状態にあって、従業員も出勤しようとする場合に、会社は、社内でのウイルス感染を防ぐため、自宅待機を命じることを検討すべきです。この場合は、仕事ができる状態にあるものの、会社の責任、判断によって自宅待機を命ずるため、少なくとも休業手当として平均賃金の6割以上の金額を支払う義務があるということになります。

3-3.家族に感染者が出た場合

 従業員の同居の家族に感染者が出た場合には、その従業員は健康状態に問題がない場合であっても、濃厚接触者として、保健所から、一定の期間、自宅待機をするよう要請を受けることになります。この保健所の要請に基づく自宅待機中に在宅勤務で仕事をさせることが可能な場合で、実際に業務をさせた場合には、その間の賃金は発生します

 他方で、会社が工夫をしても在宅では業務をさせることができずに従業員が休業せざるを得ない場合、その間、従業員は会社の責任と判断で仕事をできなくなったわけではありません。すなわち、この場合の休業は、会社側の事情に起因したものではなく、会社側で回避可能なものでもないので、会社は賃金を支払う義務はありません

 もっとも、この場合でも、従業員の生活保障や、感染防止のために従業員に自宅待機の自粛要請を守ってもらうために、有給の特別休暇を付与するなどして自宅待機期間中の賃金の一部または全部を補償している企業もあるようです。保健所から自宅待機を求められる期間が解除された後も、会社の判断で、念のためさらに数日間の自宅待機を命ずる場合には、休業手当の支払いが必要になります。

3-4.有給休暇取得と休業の関係

 自治体からの自粛要請を受け、企業が休業日を設けることとした場合、この休業日に年次有給休暇を取得させてよいかという問題があります。

 そもそも、年次有給休暇は、従業員が申請した日について労働の義務を免除する制度です。この考え方からすると年次有給休暇を取得することができるのは、従業員に労働の義務がある日であることが前提になります。ところが休業日は、従業員には労働の義務がありません。そのため、休業日として企業が指定した日に、年次有給休暇を取得することはできないと考えられます。もっとも、会社が休業を決める前から、休業日となる日に年次有給休暇の取得申請がなされていた場合であれば、年次有給休暇の取得は可能です。

3-5.一斉休校に伴う保護者の休暇

 従業員から小学校が休校になって子供の面倒を見るために会社を休みたいという申出があった場合に、企業は欠勤扱いにしてよいかという問題があります。従業員本人から年次有給休暇の申請があればそれに従うことになりますが、そのような申請がない場合は、欠勤の扱いにすることは可能です。

 なお、休校になった子供の世話をするために年次有給休暇ではなく、特別休暇を取得させた会社に対し、助成金が支払われる制度(新型コロナウイルス感染症による小学校休業等対応助成金(※2))があります。これは、臨時休業になった小学校、特別支援学校、幼稚園、保育所、認定こども園等に通う子供の世話をする目的で、令和2年6月30日までの間に、保護者に休暇を付与する場合、会社が休暇中に支払った賃金全額(ただし、1日8,330円が上限)を国が助成する制度です。

 この制度の対象となるのは、会社が、年次有給休暇以外の休暇を付与した場合のみです。就業規則等で、年次有給休暇以外の特別休暇を付与する旨を定めていない場合でも、特別休暇として保護者に休暇を付与する扱いをした場合には、この制度に基づき、助成金の支給対象となります。また、この特別休暇は半日単位・時間単位で付与することも可能です(ただし、単に勤務時間を短縮した場合は助成金の対象外となりますので、休暇として付与することが必要です)。その場合であっても助成金の上限額は変わりません。例えば、半日は通常通り勤務させ、残り半日分のみ特別休暇を付与した場合でも、助成金の上限額は8,330円となります。

(※2)厚生労働省「小学校等の臨時休業に伴う保護者の休暇取得支援のための新たな助成金を創設しました」参照。

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