なぜ? コロナで野菜廃棄が急増、農家が「豊作貧乏」 に陥る理由古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」(1/2 ページ)

» 2020年12月11日 07時00分 公開
[古田拓也ITmedia]

 コロナ禍による外食業界の低迷は、食材を提供する農家にも悪影響を与えている。とりわけ、11月下旬からの野菜価格下落が著しく、スーパーの野菜価格に普段はそれほど敏感ではない筆者にとっても、「明らかに野菜が安くなった」と感じるほどだ。

 東京の大田市場の情報によると、野菜の卸売価格は、レタスや白菜といった葉物野菜を中心に前年比で30%〜50%程度安くなっている品目もある。野菜は安くなっているのだ。

値崩れした野菜は廃棄せざるを得ないのか? イメージ(写真提供:ゲッティイメージズ)

 今年4月に緊急事態宣言が発令されてからは、一時的に自宅で調理する機会が増加したことで需要が急増、供給が追いつかないことで白菜の卸売価格は例年の3倍近くで取り引きされる場面もあった。7月と8月にも長雨や猛暑の影響で野菜の値上がり現象が起きていた。

 しかし、11月に入ってから状況は一変し、野菜類の値崩れが発生し始める。今年は台風が上陸ゼロであったこともあり、同時期に春を迎える野菜類が市場にあふれてきた。東京都中央卸売市場統計によれば、今年8月にキロあたり171円の卸売価格だった白菜が、11月にはそこから4割減の104円で推移している状況だ。

 野菜の値下がりを背景に、今月には収穫時期の白菜をトラクターで廃棄処理するという映像が報道され話題となった。

農家が「豊作貧乏」 に陥る理由

 実は、このような野菜の廃棄はコロナ禍以前にも頻繁に行われてきたものだ。直近では、2020年の2月頭ごろにも白菜をトラクターで潰す農家の様子が話題となっている。19年が暖冬であり、20年頭の白菜も今回と同様に出来が良く豊作となっていた。なぜ、このような豊作下で廃棄が発生するのだろうか。

 それは、野菜は、価格の変化に対して需要の変化が小さい品目であることにも起因する。つまり、いくら野菜を安く販売しても人間の胃袋には限界があるため、需要が伸び続けるわけでもない。

 そのため、野菜のような食品は、供給過多になると需要が追いつかず、価格下落を招くのだ。加工品と違って一次産品である農作物は人の手で収穫量をコントロールすることが難しく、とれ過ぎた場合には自らの手で潰すなどして、供給過多を防ぎ、価格下落を食い止めなければならなくなる。この現象を豊作貧乏といい、ミクロ経済学でも研究が行われている分野の1つである。

 このような「豊作貧乏」になりやすい環境のもとで農家が野菜を「廃棄する」か、「出荷する」かという選択のメカニズムは「厚生経済学」という分野からも検討できる。今回は厚生経済学における「生産者余剰」の概念から野菜の廃棄に至るまでの過程を考えてみよう。

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