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自己啓発セミナーは「くだらないだけ」なのか――神無き時代、「信者ごっこ」の真の意味「転落しないため」に(3/4 ページ)

» 2020年12月11日 11時00分 公開
[真鍋厚ITmedia]
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変化拒めば「転落」するこの社会

 しかしながら、家族や友人関係、地域社会といったコミュニティーの弱体化が進む状況下で、動機付けの源泉となる創造性や自己再生を促す魅力的なコミュニティーを確保して、学び直しやスキルアップに精を出すことができるのは、いわずもがなよほど幸運に恵まれた者だけになるでしょう。グラットンが「活力資産」「変身資産」と呼んでいるのが象徴的です。

 仮に、人生にサクセスストーリーは不要で、普通に生きていければ良いという人々であっても、下層に転落しないためには「働き続けるための自己啓発」が不可欠となります。恐るべきことにグラットンの未来図の陰画(ネガ)に潜むのは、「変化することを拒んだり、能力開発を怠ったり、そのための動機付けが枯渇してしまった者は社会の主流から弾き落とされる可能性が高い」ということだからです。

 これは、裏を返せば、世俗的な成功の有無に関係なく、根拠なき自信やポジティブマインドが、むしろ重要な要素となり得る場合があることを意味してもいます。近年サイコパスがニュートラルな観点から取り上げられることが多いことが特徴的ですが、「鋼のメンタル」「スルースキル」といった強靭な精神力をさながらアプリのように、お手軽に脳内にインストールできればと望む人々が少なくないことがその表れといえそうです。

 グラットンの言葉を借りれば、本来はさまざまなコミュニティーの恩恵や、人生経験で培われる「資産」ですが、それをドーピング的な発想で実装しようとする試みです。確かに、動機付けはエンジンの燃料のようなもので、発火すれば何でも良いと捉えられなくもありません。ビジネスシーンにおけるマインドフルネス瞑想といった西洋仏教の流行もその辺りにヒントがありそうです。

 言うまでもなく前述のグラットンの処方箋は相当にハードルが高いものです。これは、究極的には、どれほど才能がある個人であっても、優秀なチームプレイの助けなしには、とても乗り切れない社会であることを示唆しています。しかも、それらのチームは「自己の責任において」組織しなければなりません。

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