一言で言えば、チャレンジ精神や新しい物事への関心といったものです。誰に頼まれたり、要求されたりしなくとも、彼は内側から沸き起こる衝動に従うのです。
これが昨今もてはやされる「自律的なキャリア形成」と表面上似ていることは偶然ではありません。「『キャリア自律』とは、働き手が当事者意識を持って自らの責任でキャリアを築き上げていくことである。働き手は、“自分ごと”としてキャリアビジョンを描き、自身の価値向上に積極的に取り組んでいくことが望まれる」――。これは最近、経団連が出した報告書の一節です(「Society 5.0時代を切り拓く人材の育成」)。シンプルな命令文に換言すれば、「自ら進んで自己啓発せよ」というわけです。
学び直しやキャリアアップ自体は、実はそれほど難しい作業ではありません。最も大きな課題となるのは、そのための動機付けなのです。人生100年時代がデフォルト(初期設定)になりつつある中で、長期間にわたって学び直しやキャリアアップを自発的に行いながら就労することは、心身のコンディションを良好に保ち続ける以上に骨の折れることです。要は、クロックがまったく労せず手に入れていた実行力=動機付けの調達に尽きるのです。
ピール/クロックの思想の底流には、「神の力」「神の加護」があります。ピールが自著で聖書を繰り返し引用していますが、あくまで信仰心を持っていることが大前提だからです。それはやがて良くも悪くも「経済的な成功」は「神の祝福」であるというロジックを定着させます(森本あんり「ドナルド・トランプの神学─プロテスタント倫理から富の福音へ」/『世界』2017年1月号)。
21世紀の「神なき時代」を生きるわたしたちにとって、クロックのような動機付けの源泉を得ることは至難でしょう。
人生100年時代の提唱者である組織論学者のリンダ・グラットンは、技術革新の加速による社会の変化と健康寿命の伸長などを踏まえ、「何度でも生まれ変わる」ような柔軟なライフスタイルと、それを支えるコミュニティーの重要性を訴えています。人とのつながりが他でもない動機付けの源泉になり得るからです。個人レベルのサスティナビリティ(持続可能性)には、エンパワメント(湧活)される関係性が不可欠という真理です。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PRアクセスランキング