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えちごトキめき鉄道の鳥塚亮社長と沢渡あまねが語る「地方企業の問題地図」 Uターン、Iターンが失敗する構造的問題地方企業の問題地図 【前編】(1/5 ページ)

» 2020年12月18日 11時10分 公開
[田中圭太郎ITmedia]

 新型コロナウイルスの影響により、企業にテレワークの導入が進むにつれて、「脱東京」や「地方移住」への関心が高まっている。移住ブームとも言える状況は今後も続くことが予想される。

 しかし、地方の企業に転職するか、もしくは移住して新たなビジネスを起こしても、数年後には東京に戻ってしまうケースは少なくない。働く場所を都会から地方に移したときに、うまくいく場合とうまくいかない場合は何が違うのか。

 「外から地方に溶け込むには、地方の構造的な問題を理解して、受け入れられる努力が必要」と話すのは、千葉県のいすみ鉄道を経営危機から救い、現在は新潟県のえちごトキめき鉄道の社長を務めている鳥塚亮氏だ。外資系の航空会社から地方の鉄道会社に転身した鳥塚氏と、現在浜松市に身を移して組織改革・ワークスタイル変革の専門家として活動している沢渡あまね氏にオンラインで対談してもらった。

 対談では地方が抱える課題や、都市圏の人材と地方企業がコラボレーションするためのヒントなどを聞いた。前編では、鳥塚氏と沢渡氏が自らの経験から感じている、地方企業や行政の問題点などについて考える。

phot 鳥塚亮(とりつか・あきら)えちごトキめき鉄道代表取締役社長。元いすみ鉄道社長。1960年生まれ。東京都出身。元ブリティッシュ・エアウエイズ旅客運航部長。2009年に公募で千葉県のいすみ鉄道代表取締役社長に就任。ムーミン列車、昭和の国鉄形ディーゼルカー、訓練費用自己負担による自社養成乗務員運転士の募集、レストラン列車などをプロデュースし、いすみ鉄道を一躍全国区にし、地方創生に貢献。2019年9月、新潟県の第3セクターえちごトキめき鉄道社長に就任。NPO法人「おいしいローカル線をつくる会」顧問。
phot 沢渡あまね(さわたり・あまね)作家/ワークスタイル専門家。あまねキャリア工房代表(フリーランス)。なないろのはな 浜松ワークスタイルLABO担当取締役。NOKIOO顧問。エイトレッド顧問。1975年神奈川県生まれ。日産自動車、NTTデータ(オフィスソリューション統括部)、大手製薬会社などを経て、2014年秋より現業。情報システム部門、ネットワークソリューション事業部門、広報部門などを経験。これまで300以上の企業・自治体などで、ワークスタイル変革、組織改革、マネジメント改革の講演・業務支援・執筆活動などを行う。『職場の問題地図』(技術評論社)など著書多数。新刊に『業務改善の問題地図』(技術評論社)、『職場の科学 日本マイクロソフト働き方改革推進チーム×業務改善士が読み解く「成果が上がる働き方」』。 Twitterは@amane_sawatari

Uターン、Iターンがうまくいかない構造的問題

――地方企業の問題点をどう見ていますか?

沢渡: コロナ禍で移住ブームが起きている中で、変われる地方と変われない地方、または求心力を高めていく地方と人を逃していく地方の二分化が加速すると感じています。私が考える「変われない」地方都市、地方企業の問題点は、悪気なく今までの理不尽な当たり前にこだわり周りに押し付けることです。

 当たり前に固辞する、あるいは押し付けることによって、新たな取り組みやチャレンジの芽を摘(つ)んだり、都会から転職してきた人材や地域でもやる気のある人材を活躍できない環境に追い込んだりする実態も散見されます。それでいて「いい人が集まらない」「人手が足りない」「どこかにいい人いませんかね」と嘆く。ある意味で、自業自得の構造です。

 あるリクルーティング会社が2019年に実施した調査研究では、IターンとUターンによる転職者の定着率が必ずしも高くない実態が見えてきました。その理由は「地方ではやりがいのある仕事がない」「自分の活躍できる場がない」というものでした。

 例えば都会でマーケターをしていた人が地方の企業に転職したとします。会社にマーケティングの部署も発想もそれを受け入れる柔軟性もなかったらどうでしょうか。会社はひと昔前の「営業のべき論」に悪気なく固執し、夜討ち朝駆けの営業スタイルしか認めない。新たなマーケティング手法に耳を貸しすらしない。やがてその人はモチベーションを下げ、辞めてしまいます。あるいは物言わぬ大人しい人に変わっていきます。悪気はない一方で、UターンやIターンの人材を生かせないのはとてももったいないですし、切ないですよね。

鳥塚: 昔から世の中を見てきた人間としては、おそらく都会と地方には時間差があると思っています。昔の時間差はハード面でした。鉄道で言えば、都会は電車で、地方は蒸気機関車。それが10年、20年が経(た)って、地方も電車に変わりました。これは誰の目にも明らかでした。

 ところが現在は、ソフト面で時間差が起きています。沢渡さんが指摘したように、地方には新しい発想やスキルが浸透していません。一言で言えば、考え方が古い。ただ、この時間差がハードのように目には見えないので、都会から地方に来た人にとっては、あちこちに地雷があるわけですよ。

沢渡: それはよく分かります。

鳥塚: 地雷を踏むたびに「この人もこうだったのか」と失望します。都会の人は田舎に対する憧れを持って移住したのに、結局失望して3年か5年くらいで都会に帰っていく。一方で、地方の人には都会から来た人に対して「あの人はいつまでいるんだろうか」という見方が根付いてしまっている可能性があります。うまくいかない地方には、構造的な問題があるのでしょう。

phot 憧れを持って地方に移住したのに、3年か5年くらいで都会に戻る人も(以下写真提供:ゲッティイメージズ)
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