近年におけるEC市場の成長が目覚ましいことは誰もが知る通りであるが、食品、特に生鮮食品などについては、今でもリアルのシェアが圧倒的に高い。アマゾンでさえ、米国でリアル店舗を構える食品スーパー大手「ホールフーズ・マーケット」を買収したように、食品流通に関してリアルの存在感は揺るがないのである。
ここまでを読んで、「ECとの親和性が低いのであれば、わざわざやらなくてもいいのでは?」と感じる読者もいるはずだ。しかし、巨大プラットフォーマーにとって、物販は収益を追求するためのビジネスではない。
消費者行動データの捕捉のための媒介という位置付けであるため、「食」という消費者の生活にとって極めて重要なビッグデータを放っておくわけにはいかない、というわけだ。極言するなら、単体でもうからないとしても、食品には取り組まねばならないのである。西友は今後、ネットスーパーと連携した食のビッグデータ獲得ルートとして、重要な役割を果たすことになるだろう。
コロナ禍により、ネットスーパー各社は大幅増収だが、配送能力を超える状態となり、物流体制の強化が課題になっている。ECはコロナ禍を経てさらに消費者へ浸透し、これまで以上にECシフトが進むことになるだろう。そうなれば、物流に求められる能力はこれまで以上に大きくなるのだが、現在の物流はまだまだ労働集約的な産業であり、アフターコロナでまた人手不足の状態が戻れば、物流インフラの整備が追い付かなくなることが懸念されよう。今後は増大する物流コストを誰が負担するのかも大きな問題になるだろう。
売上拡大を目指すEC側にすれば、コストを消費者に負担させることは避けたいに決まっているが、店に行かなくて届けてくれるという便益の受益者は購入者であり、受益者負担というこれまでの原則で考えれば、購入者が負担すべきコストということになる。とはいいつつ、結局こうしたコストは一連のバリューチェーンの中の“弱者”が負担することになるのが世の常だ。実際に、楽天が送料無料化を巡って出店者と争議になったことは記憶に新しい。
本来、物流コストの低減は、物流工程の技術革新などが実現しないと解決できず、しばらくは物流コストのババ抜きが続いていく可能性がある。ただ、EC化の真の受益者は、ビッグデータを持つプラットフォーマーであるEC企業であり、これからは物流の技術革新に対する投資を行っていくべきだろう。
既に楽天は、西友と組んでドローンや自動走行ロボットによる配送の実験などを行っているようだ。こうした技術革新で物流コストを根本的に低減できれば、企業のバリューチェーン全体の付加価値が、飛躍的に向上することは確実だといえる。消費者の利便性向上のために、物流業界やメーカーだけに負担を強いる未来は持続的ではない。その点で、今回の西友を巡る楽天の動きには、今後も注目していきたい。
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