クルマはどう進化する? 新車から読み解く業界動向

ガソリン車禁止の真実(ファクト編)池田直渡「週刊モータージャーナル」(6/6 ページ)

» 2021年01月01日 05時00分 公開
[池田直渡ITmedia]
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 それらは全て、これからの世界のルールがどう決まっていくかに依存する。環境技術=競争力の方向に進むことは疑う余地がないだろうが、LCAがどうなっていくかは予想でしかない。ルールも決まらない内に必勝法が成立するわけがない。落ち着き所を見定めて、方針を決めないと逆を突かれることもある。にもかかわらずなぜガソリンエンジンの廃止を急ぐのかが全く理解できない。

 EVに全く着手していないのであればともかく、日本には電動化の技術がある。まともな経営者ならインフラの進展をにらみながら製品を展開する。電源側に準備ができていない今、EV一本化などという愚かな判断はあり得ない。もちろんEVの研究は必要だ。トヨタはそれを怠りなくやっているといっているし、日産は早くからそれに着手している。ホンダもEVをリリースしたし、マツダもすでに欧州では販売している。スバルも計画を発表済みだ。それで不満を言う理由がどこにあるのだろう?

 日本の自動車産業をガラパゴス呼ばわりする人がいるが、少なくともこれまでの推移を見る限り、立派な実績を挙げている。日本の自動車全体で、CO2排出量は2.3億トン(01年)から1.8億トン(18年)と22%削減している。平均燃費もJC08で13.2キロ/L(01年)から22.6キロ/L(18年)と71%向上している。

 電動化比率は世界第2位の35%。1位はノルウェーの68%だが、実台数で見るとノルウェーの10万台に対して日本は150万台である。ノルウェーは多くがEVで日本はほとんどがHV(ハイブリッド車)なので構成は違うが、台数差を見ると、CO2削減絶対量での貢献はどう計算しても日本の方が高い。加えて、工場のCO2排出量は990万トン(90年)から631万トン(18年)とこちらも大幅に削減している。

 翻って、先ほどの電源構成のグラフを見てほしい。インフラ電力のCO2削減は横ばいでしかない。しかも11 年の東日本大震災で原発の稼働が止まって、その比率はむしろ大幅に落ち込んでいる。自動車産業が大幅に改善して来た数値と比較して何か言い分があるだろうか? 自動車が「ガラパゴス」ならインフラ電力は「化石」で、それを放置してきた経産省が、ロードマップを描きもせずに、全ての責任を自動車産業になすりつけようとしている不義の図に見えるのは穿(うが)った見方だろうか?

再掲:経済産業省が示した17年の日本の電源構成(経済産業省)

 さて、元日からすっかり長文になってしまった。明日は「正しい競争社会のあり方」をテーマにこの続きを書きたい。

筆者プロフィール:池田直渡(いけだなおと)

 1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミュニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。

 以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う他、YouTubeチャンネル「全部クルマのハナシ」を運営。コメント欄やSNSなどで見かけた気に入った質問には、noteで回答も行っている。


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