最近は生活者の潜在的な意識が購買決定を大きく左右する。特に衣料品は買い慣れた手順で購入する人が多い。以前買って気に入った店からのぞいたり、日用品の買い物ついでだったり、個人がそれぞれ納得のいく方法で商品を手にしている。常日ごろ「A店は安い」と思って買っていたのに、高く感じてしまうきっかけを与えてしまうと、A店で買う以外の選択肢を探すことになるのだ。
人気ショップとして継続して支持を集めるためには、いつもの買う習慣以外の選択肢をいかに与えず、顧客をつなぎとめておけるかが重要だ。
そのあたりのことを良く理解しているのがユニクロだ。現在、ユニクロの店内をのぞくと値下げ商品は1枚もない。冬物セール時期にもかかわらず値下げ表記が無いのだ。あるのは「新価格」と書かれた赤いPOP表記のみ。そう、ユニクロでは値下げ価格を「新価格」とうたうのだ。「値下げ」「処分価格」「割引」と聞いてワクワクしたのは遠い昔の話で、今では「余り物」とか「売れ残り」といった負のイメージの方が強くなる。
確かに「新価格」であれば、「新商品」や「新作」と同じように「新」で始めた方がブランドイメージが保たれる。しかし、それでは生活者の誤認とならないのか。個人的には少し不安に感じるのだが、そこまでこだわって価格訴求を考えているという事の裏返しでもある。
4月から始まる「総額表示」の義務化。今までお値打ち感を打ち出していた企業の大半は本体価格+消費税で価格訴求をしてきた。競合店の動きを見ながら消費税を内包させる(実質値下げ)企業が多いと考える。しかし、これは新たに消費税を転嫁する話ではなく、表現方法が変わるというだけの話なのだが、「値上げ感」=負のイメージという呪縛から、ファッション産業は逃れられないでいる。
磯部孝(いそべ たかし/ファッションビジネス・コンサルタント)
1967年生まれ。1988年広島会計学院卒業後、ベビー製造卸メーカー、国内アパレル会社にて衣料品の企画、生産、営業の実務を経験。
2003年ココベイ株式会社にて、大手流通チェーンや、ブランド、商社、大手アパレルメーカー向けにコンサルティングを手掛ける。
2009年上海進出を機に上海ココベイの業務と兼任、国内外に業務を広げた。(上海ココベイは現在は閉鎖)
2020年ココベイ株式会社の代表取締役社長に就任。現在は、講談社のWebマガジン「マネー現代」などで特集記事などを執筆。
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