クルマはどう進化する? 新車から読み解く業界動向

オール電化やタワマンを見れば分かる EV一辺倒に傾くことの愚かさとリスク高根英幸 「クルマのミライ」(4/7 ページ)

» 2021年02月01日 07時00分 公開
[高根英幸ITmedia]

EVを増やす前に用意しなければならないもの

 クルマを電動化するということは、一定以上の車格では最低でもPHEV、それとEVにしなければならなくなる。

 ハイブリッドでも燃費の向上は期待できるが、それは現在と比べてというレベルであり、カーボンニュートラルを目指す以上、ほぼ電力だけで走れるようにならなければ意味がない。ただし小さく軽いクルマとなると別問題だ。

 トヨタ・ヤリスハイブリッドのCO2低排出量ぶりをご存知だろうか。実燃費で1リットルあたり30キロメートルをマークするほどのエコぶりで、キロあたりのCO2排出量は65グラムと、現在の厳しい欧州CAFE燃費規制(95グラム/キロ)を余裕でクリアする。現時点では実質的にEV以上のエコカーだ。国民全員ヤリスハイブリッドに乗れば、CO2排出量は思い切り削減されるが、トヨタがヤリスハイブリッドしか販売しないのも現実的ではないし、夢が無さ過ぎる。

【訂正:11:34 CO2排出量の単位が誤っておりました。お詫びし訂正いたします。】

 そもそもこれまで通りのクルマの移動を続けたとすると、どれだけ電力が必要になるか、試算した分析はあるのだろうか。筆者は見たことがないし、探しても見つからない。そこで、ここで簡単な計算をしてみよう。

 日本中のクルマ(約8000万台)がすべてEVに置き換わったとして、ざっくりと平均電費を、日産がサイトでリーフ基準としている6キロ/kWhを参考にて、分かりやすくするために年間走行距離を平均6000キロとすると、1台あたり年間1000kWh、つまり日本全体で8000万台×1000kWh=800億kWhの電力が必要となる。これは家庭用電力の4割弱に値する。これだけの電力を何を使って新たに発電するのか。

 この800億kWhは、全てのクルマが同じ稼働率で動いたと仮定しているが、実際には週末しか動かないクルマもある。しかし商用車では走行距離も多く、貨物車などの電費はさらに悪いだろう。しかも、これはクルマに充電された電力の消費量であるから、送電ロスや充電時のロスは含まれていない。これも含めると1000億kWh以上の発電能力は必要になる。

 単位を繰り上げずkWhのままとしているのは、資源エネルギー庁のデータに合わせるためだ。現在のところ、日本の電力供給量は10000億kWh程度。そしてそのほぼ全てを使い切っている。だから電力供給がひっ迫して節電を呼びかける羽目になっているのだ。

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