新型コロナウイルスの影響により、研修の在り方が見直されている。2020年の4月には緊急事態宣言が発出され、新入社員の研修対応に多くの企業が苦労した。そして現在、コロナ禍で迎える2度目の入社シーズンに向けて、企業は研修体制の抜本的な見直しが迫られている。そこで注目されているのが、オンライン研修だ。
セレクトショップを展開するユナイテッドアローズでは、コロナ禍以前からいち早く動画を用いた研修のオンライン化を進めていたことで、20年卒の新人に対してはフルリモートで研修を行えた。新人と“密”なコミュニケーションを取れただけでなく、内定辞退率の減少や、実店舗での素早い戦力化につながっているという。
新人以外の社員向け研修もオンライン化した。特に管理職向けの研修では、大幅な時間削減と、コストカットを実現した。
同社の小林貞裕氏(販売支援部 企画戦略推進担当)は、「生産性向上を目的にコロナ禍前にオンライン研修を導入したが、結果的に時代に適応する形となった」と話す。具体的な研修方法やオンライン研修による成果について聞いた。
※【編集履歴:2021年2月5日午後14時50分 初出時の記載に誤りがあったため、一部表現を改めました】
ユナイテッドアローズでは従来、赤坂の本社で集合型の研修を行っていた。新人研修では合計3日間、20〜30人の新人を集めて行っていた。コロナ禍以前は、中途採用も含めると年間300人ほどが新人教育を受けていたという。初日は経営理念の理解、2日目は社会人マナーや店舗での振る舞い、3日目は販売スキルについて指導するという内容だ。
しかし実務を行う準備として、研修だけでは十分ではなかったという。小林氏は「小売業の仕事内容は感覚的なものも多く、集合研修の際にテキストでマニュアル的に伝えられる内容は少なかったです。最終的にはOJTでカバーする形となっていました」と話す。
販売には接客などの「表の業務」と、品出しや商品の移動といった「裏方業務」があり、特に裏方業務は集合研修で教えきれない部分だった。そのため店舗で指導をしていたが、育成内容の平準化が課題となっていた。店舗ごとのローカルルールがあるなど担当者によって手順が異なり、「人によって言うことが違う」と受け取る新人もいたという。
そのような課題を解決するために、18年から動画研修のトライアルを始めた。PCや業務用タブレットだけでなくスマートフォンからも視聴できることや、アプリケーション内で動画にテロップを入れられることを評価して、19年10月に動画研修サービス「shouin」の活用を始めた。shouinは研修動画や資料を共有できるクラウドサービスで、視聴後のテストやチェックリストなどを用いて理解度を把握できる。
本格的に動画研修を取り入れる対象となったのが、20年卒の新入社員だった。偶然ではあるがコロナ禍と重なり、動画によるオンライン研修が功を奏した。
20年4月、緊急事態宣言を受けてユナイテッドアローズの店舗は臨時休業を行った。入社後すぐに自宅待機となってしまった新人には、約1カ月半、毎週shouinを通して同社の教育チームが課題を与えた。ファッションや社内ルールについてなど幅広く取り上げ、店舗に立つ頃にはある程度知識や接客イメージがついている状態になるまで学んでもらったという。
ディスカッションや質疑応答など双方向での学習が必要な内容はWeb会議システムの「Microsoft Teams」を使用した。2つのツールを使い分けることで、3密を避けながらも質を保った研修が実施できた。
「オンライン研修のおかげで、知識や接客イメージは他の社員と遜色ない程度まで身についていました。その結果、配属先の店長や社員から『従来の新人よりも動き出しが早かった』という話が出るようになりました」
研修の内容には、動画をただ視聴するものだけでなく、能動的に参加する内容も用意した。例えば、メンバーが動画を送信できる「shouinカメラ」機能を活用し、「動画で今日のコーディネートを敬語で説明する」という課題を出した。どんな気分でその服を選んだのか、接客にふさわしい言葉遣いで伝える練習だ。「自宅の畳の上に新聞紙を引いて、その上に靴を履いて自分のコーディネートを紹介しているのを見るとかわいらしいですね」と小林氏はほほ笑む。
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