クルマはどう進化する? 新車から読み解く業界動向

EVはクルマか否か アップルも参入の戦いで「敗れる者」と「残れる者」高根英幸「クルマのミライ」(2/4 ページ)

» 2021年02月15日 06時00分 公開
[高根英幸ITmedia]

テスラがリコールでタッチパネルの短命ぶりを認める

 クルマがここまで発展し、世の中に受け入れられてきたのは、便利であるからの一言に尽きる。そのためには自動車メーカーが、従来のクルマをどれだけ快適で高い信頼性を確立させてきたか、想像できるだろうか。

 地道な努力を長い時間費やして続けてきた積み重ねが、現在の自動車産業の繁栄につながった。新興EVメーカーのほとんどは、それとは全く違った角度からクルマ作りを行っている。規格化された部品を利用するのは既存の高い信頼性を活用できる方法だが、それだけではユーザーに新しい価値を提案できない。

 最初から富裕層だけを相手にし、環境保全やEVの持つ可能性をアピールして新しいカーライフを提案し、信者を獲得していったのがテスラだ。EVの持つ先進性や圧倒的な加速性能などでオーナーを魅了して、量販車種や商用車部門に進出し、幾度ものピンチを乗り越えながら現在の成功へと到達した話は以前、紹介した(テスラに続くのは、果たしてどのEVベンチャーか?)。

 その一方で北米市場では、テスラは顧客満足度では主要なブランドでは最下位となるほど、ユーザーは細かなトラブルに見舞われている。そして先日の米国でのリコールは、以前から存在していたテスラの問題点を完全に浮かび上がらせた。

 テスラは量産車のモデル3から、ダッシュボード上には物理スイッチを設けず、大型タッチパネルにすべての操作を集約させた。これによりさまざまな装備を搭載するコストを圧縮できるだけでなく、機能面のアップデートも容易にした。これまでの常識とはかけ離れた斬新なシステムだ。

米国でリコールとなったテスラ・モデルSのダッシュボード中央に置かれた大型タッチスクリーン。以来、クルマのダッシュボード上にあるメーターパネルとステアリングコラムスイッチ以外の要素をすべてここに集約させている。なお、21年モデルでモデルSはマイナーチェンジされ、インテリアを一新している

 システム自体は素晴らしいものであるが、タッチパネル内部の不揮発性メモリ(記憶しておくことができるメモリ)は書き換え回数に限度がある。どちらも寿命は意外と短く、3年間の残価設定ローンが終了すればまた新車に乗り換えるような使い方では問題が起こりにくいが、4年5年と経過するうちにトラブルを起こす。

 リコールではメモリ容量を8倍にすることで問題を解決できるようだが、課題はそれだけではない。中国でもテスラの品質問題は取り上げられ始め、タッチパネル以外にも塗装の品質やルーフパネルの接合不良、異常加速など、真偽のほどや原因が不明な情報もあるものの、さまざまな問題を抱えている。

 テスラですら、この程度のレベルなのである。例えば中国のEVメーカーNIOが他社からエンジニアを引っ張って来ようが、欧州に開発拠点を設けようが、中国主導の企業ゆえの大陸的発想による品質問題は絶対に根底に残っている。

 米国の新興EVメーカーはほとんど量産車の販売を開始していないし、NIOや理想、小鵬といった中国新興EVメーカーは中国市場で1万台程度を販売しているに過ぎない。しかも求められる品質は日本や欧米のそれとはまだ大きな差がある。

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