「洋服の青山」、400人希望退職の衝撃! 窮地のスーツ業界が生き残るには小売・流通アナリストの視点(2/4 ページ)

» 2021年02月26日 05時00分 公開
[中井彰人ITmedia]

小売業昔話 かつては「ロードサイド」「男」が中心だった

 高度成長期に勃興した日本のチェーンストアの歴史は、ダイエーに代表される総合スーパーがけん引して始まった。1980年代、モータリゼーションが日本に普及することで生まれたロードサイド市場の拡大を背景に、商品ジャンルごとに分化した専門店チェーンが急成長を遂げる。

 この時代のドライバーは男性が大半であったため、この時期に生まれたロードサイド型専門店は「男」の店であり、紳士服専門店、家電量販店、ホームセンターなどが代表格である。あくまでこの時点では、後に女性ドライバーの増加を背景に成長する郊外型ドラッグストアや、しまむら、ユニクロ、ニトリといった面々は、地方の中小チェーンでしかなかった。

 これらの専門店チェーン先発組は、その長い歴史の中でさまざまな環境変化を経て、淘汰の波に飲み込まれた企業も多い。例えば、ロードサイド型の家電量販店は各地に有力チェーンが勃興したが、かつての業界の雄、コジマはビックカメラ傘下となり、ベスト電器はヤマダ電機傘下となった。その他の地方有力家電量販店も、その多くが再編の中で消えていった。紳士服専門店チェーンも同様に、各地で勃興した多くのチェーンが消えていったのだが、青山商事、AOKIの先発組は、長らく業界2強として君臨し続けてきた。この2強に共通しているのは、昔から「業態は陳腐化する」という認識を明確に持っていたことにある。

紳士服2強は、「陳腐化」に備えていた(出所:ゲッティイメージズ)

業態は陳腐化する

 業態は陳腐化する、という言葉の意味は、どんなに流行った店でも、一定の時期が過ぎれば、消費者に飽きられたり、環境に合わなくなったりして、いつかは売り上げが低迷する時期が来る、という店舗ビジネスにおける経験則のことを指す。例えば、店舗の大きさに関しての出店規制がある時代に、規制の中で出店し得る最大サイズの店舗を素早く出店して成長した企業も、規制が撤廃されれば後発である大規模店舗チェーンに品ぞろえで負けてしまうことも起きる。その結果、淘汰されてしまうことが、家電量販店やホームセンター業態において実際に起こったのだ。小売店の運命は予測不能な環境変化にあらがうことは難しいのである。

 このことから考えれば、店舗ビジネスにおいては「店舗の陳腐化」を前提として、対策を持っていなくてはならないのだが、小売企業は必ずしもその備えをしてはいない。チェーンストアは、ある店舗フォーマットが成功すると、収益機会を最大化するため、短期間に同種の店を大量出店する。しかし、気が付かないうちに陳腐化が進んでいて、チェーンごと不採算店舗と化し、手が付けられなくなる。こんな話はチェーンストアではよくある話だ。しかし、紳士風2強は陳腐化を前提に、不採算店を業態転換するための受け皿事業を用意して生き抜いてきた、しぶとい企業なのだ。

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