「洋服の青山」、400人希望退職の衝撃! 窮地のスーツ業界が生き残るには小売・流通アナリストの視点(3/4 ページ)

» 2021年02月26日 05時00分 公開
[中井彰人ITmedia]

エンタメ事業へ転換を図ってきたAOKIホールディングス

 例えば、業界2位のAOKIホールディングスの事業構成の推移をみると、エンターテインメント事業が次第に成長して、中核のファッション事業に次ぐ規模になってきたことが分かる。

 この事業は、複合カフェ「快活CLUB」や、カラオケ店「コート・ダジュール」、フィットネスクラブ「FiT24」などを運営しており、グループ売り上げの3割、583億円に達している。そして、この事業は、郊外の紳士服店が環境変化などにより不採算店となった場合に、業態転換するための受け皿事業として生まれたものなのである。

 普通、業績不振で不採算店舗の発生となれば、減損損失(投資に見合った収益が見込めない場合に計上する会計上の損失)などの損失が発生する。こうした閉店が同時に多数発生すれば、小売企業の業績に大きなダメージを及ぼし、財務基盤を大きく毀損(きそん)する可能性もある。ただ、AOKIのように社内の方針に基づいて、計画的な業態転換を進めていくのであれば、その店舗は改装、転換によって収益を見込むことが可能となり、損失計上には直結しない。

 それどころか、紳士服の不採算店は、改装によって別業態(カラオケ店や複合カフェ)となり、次年度以降、エンターテインメント事業の売り上げ、収益に貢献するという好循環を生み出した。不採算店という負の資産を、今やグループの3分の1に当たる、事業の第2の柱としたのだから、大したものだ。ただ、今回のコロナ禍に関していえば、分散した事業がどれも大きな影響を受ける部類だったため、グループ収益の下支えにはならなかったのは不運だった。直近の報道では、今後はシェアオフィス事業を起こして、店舗転換を進め100店舗の新事業として確立させる計画であるらしいが、これまでの実績もあるから十分に説得力がある。

他業種のFC運営で立地を抑える青山商事

 AOKIとまではいかないが、青山商事も不採算店の受け皿として、異業種のフランチャイズ(FC)加盟店となって業態転換するパターンを持っている。昔から、100円ショップ「ダイソー」のFC事業を運営しており、売り上げ156億円、営業利益5.8億円(20年3月期)と自立した事業となっている。元不採算店を転換したことを考慮すれば、上々の成果といえよう。

出所:青山商事公式Webサイト

 他にも、リサイクルショップ「セカンドストリート」や「焼肉きんぐ」のFC事業も運営しており、店舗の立地に応じて業態を変える準備があるといえる。また、閉鎖店舗の業態を変えてグループ内で持ち続けることで、ライバルに出店場所を与えない効果もある。また、AOKI同様にシェアオフィス事業も展開を始めている。このように紳士服2強は不採算店処理という損失をうまく処理する仕組みを持つことによって、追随を許さないポジションを維持してきたのである。

 一般的に、小売業においては閉鎖店舗が出ると、その後釜として居抜き出店できる業態があり、得意とする広さによって住み分けられている。例えば、従前が百貨店や大型総合スーパーの店舗だと、ドン・キホーテかカメラ系家電量販が入ることが多い。家電量販店やホームセンターであれば、その跡地にはブックオフやハードオフといったリサイクル系、もしくはディスカウントストア(トライアル、業務スーパー)といったパターンだろうか。これらの業態は、自らの出店余地である閉鎖店舗が多く生まれるときほど、成長できる。

 再編が急速に進んでいる業界の企業を中心にFC加盟を募り、加盟企業の業地転換をサポートしつつ、効率的に出店を進めてきた企業もある。それが、業務スーパーで有名な神戸物産である。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.