なぜ東北新社は「首相の息子で官僚を接待」というアウトな戦略を選んだのかスピン経済の歩き方(2/5 ページ)

» 2021年03月02日 09時39分 公開
[窪田順生ITmedia]

総務省へのロビイングは続いていた

 実際、総務省などの報告では、東北新社による幹部ら13人の接待は、2016年7月から20年12月にかけてのべ39件にのぼる。「たまたま」「うっかり」という言葉では説明できない数字であり、「絶対に幹部を接待漬けにしてやるぞ」という強い意志さえ感じる。そんなアウトロー的な経営方針に加えて、筆者が驚いているのが、この39件の半分に菅首相の長男を同席させている点だ。

総務省職員との会食問題に関して、東北新社は関係者への処分を発表(出典:東北新社)

 東北新社が接待攻勢を強めていく18年、森友・加計学園問題が発覚して「官僚への忖度」「アベ友」なんて言葉が連日のように取り沙汰されたのは、記憶に新しいだろう。

 首相の夫人や友人たちが関わる事業がことごとく「政治の介入があったのでは」と疑惑の目を向けられる社会の風潮のなかで、菅官房長官(当時)の長男の、総務大臣政務秘書官時代に培った人脈を利用して、総務省幹部を接待していることに対して、東北新社の経営陣がなんのリスクも感じなかったとは考えにくい。

 官僚人事を支配する「菅官房長官」とのパイプをちらつかせて、幹部官僚に接待攻勢を仕掛けて許認可に影響を与えていたとしたら、モリカケ問題よりはるかに悪質だ。会社がひっくり返る大スキャンダルである。しかし、経営陣は「首相の長男」を引っ込めるどころか、接待の最前線に立たせ続けていた。

 経営陣が超お気楽だったという可能性も否めないが、常識的に考えればこれは「菅首相の長男を用いてのロビイング」が、東北新社経営陣とって、リスクを上回るメリットが感じられたということではないのか。

 例えば、総務省の有識者会議「衛星放送の未来像に関するワーキンググループ」の18年の報告書で、右旋帯域利用枠について「公募するか、新規参入が適当」とあったものが、20年の報告書案では「4K事業者に割り当てるべき」と変更され、東北新社など既存事業者の要望に沿う形に変更されている。これについて2月25日の衆院予算委員会で、日本共産党の藤野保史議員が、東北新社の接待攻勢によって要望が反映されたのではないかと指摘している。

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