なぜ東北新社は「首相の息子で官僚を接待」というアウトな戦略を選んだのかスピン経済の歩き方(3/5 ページ)

» 2021年03月02日 09時39分 公開
[窪田順生ITmedia]

リスキーな戦略を選んだ背景

 東北新社は子会社を通じて「スター・チャンネル」や「囲碁将棋チャンネル」など8つの衛星チャンネルを手がけているが、これは地上波テレビ局のように電波を「独占」できるような立場ではない。

 実際、既存の放送事業者が使う電波が圧縮され、チャンネルの空きが出たことで、総務省はBS放送で3チャンネル分の新規参入事業者を募集し、ジャパネットホールディングス、吉本興業、松竹ブロードキャスティングの3社が加わっている。そんな風に競合が増えているなかで、衛星チャンネルの視聴者も増えているかというとそうとは言い難い。Netflixなど動画配信サービスのシェアが急速に拡大しているからだ。

東北新社は子会社を通じて、スター・チャンネルを手掛けている(出典:東北新社の決算説明資料)

 このように市場の競争が年々激しくなっていくなかで、少しでも自社のビジネスを有利に進めようとしたとき、許認可権を掌握する役人に手もみしながらすり寄っていくことを選ぶ経営者も少なくない、というのは元農水相にカネを渡していた鶏卵大手・アキタフーズの元会長が、農水事務次官ら幹部職員を接待していた事実からも明らかだ。

 そこに加えて、東北新社が「菅首相の長男に官僚を接待させる」というリスキーな戦略を選んだ背景には、政治や行政という権力に近づきすぎて、「世間一般の感覚」を失ってしまったことも大きいのではないかと感じている。

 仕事柄、企業でロビイングを担当している人によく会う。ほとんどは、ちゃんとルールを守って、政治家や官僚と面会して、自社や業界のための政策実現に向けて陳情や提言をしている方たちだが、なかには、永田町や霞ヶ関であまりに長く過ごしたせいで、「世間ズレ」してしまう方も少なくない。「政治・役人ムラ」のなかでしか通用しない異様なルールが、日本社会を支配していると勘違いしてしまうのだ。

 例えば、分かりやすいのが、何かとつけて大物政治家とのパイプを誇示して、官僚をマウンティングする人たちだ。頼んでもいないのにツーショットの写真や名刺を見せびらかして、「オレを軽く扱うとあなたの公務員キャリアに傷がつきますよ」と暗に脅して、自分の要望を通そうとする。

 一般庶民の感覚としては、「暴力団の名前を出して粋がる昔のチンピラじゃないんだから」とドン引きするような話だが、やっている本人たちからすれば「役所を動かす正しい方法」で、後ろ指を刺されるようなものではない。つまり、このように世間ズレしたロビイストたちは、大物政治家との強固なパイプさえあれば、無理な話もだいたい通るし、都合の悪い話もモミ消すことができるという錯覚に陥ってしまうのだ。

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