なぜ東北新社は「首相の息子で官僚を接待」というアウトな戦略を選んだのかスピン経済の歩き方(4/5 ページ)

» 2021年03月02日 09時39分 公開
[窪田順生ITmedia]

自分たちまで権力を握ったように錯覚

 東北新社の創業者である故・植村伴次郎氏と、菅首相は同じ秋田出身ということで20年ほどの付き合いがあって、その縁で長男も植村伴次郎氏と面識があったと首相本人が国会で答えている。また、植村氏は息子である故・植村徹氏とともにこれまで500万円の献金を菅首相にしている。

 この親子二代に渡る手厚い支援に、菅首相もちゃんと応えている。「囲碁将棋チャンネル」が10年8月に開催した「新社名披露パーティー」に、菅氏は出席した。当時は下野していたとはいえ、「元総務大臣」を呼べると示した意味は大きい。おまけに総務大臣秘書官を務めていた息子までいる。この一件で、総務省幹部たちの頭には「東北新社=菅系企業」と叩き込まれたはずだ。

 このように「政治家とのパイプ」を長く誇示してきた企業はどうなるのかというと、感覚が麻痺してしまいがちだ。その政治家が権力を握るにつれて、何やら自分たちまで権力を握ったように錯覚してしまう。政治家や官僚のように国民感覚とかけ離れた非常識さが当たり前になってしまうのだ。

 つまり、このご時世、東北新社が「首相の長男に官僚を接待させる」という時代錯誤的なロビイングをしてしまったのは、「われわれは創業者から20年来の付き合いもある菅系企業だ」という「おごり」によって経営陣のモラルが壊れてしまった可能性があるのだ。

 ただ、東北新社をかばうわけではないが、彼らがこのような一般人の感覚とかけ離れた勘違いをしてしまったのにはしょうがない部分もある。放送事業の世界では、戦国時代の政略結婚ではないが、「政治家の子息」を入社させることで、総務官僚を萎縮させるというロビイングのスタイルがずいぶん前から「常識」となっていたからだ。

 例えば、昨年退社をしたが、安倍晋三前首相の甥はフジテレビ社員だった。加藤勝信官房長官の娘さんもフジテレビにいると週刊誌が報道している。TBSでは、麻生太郎副総理兼財務相の甥が在籍しているのは有名だ。

 これが氷山の一角であることは、「テレビ局出身の世襲議員」が多くいることが示している。石原伸晃衆議院議員は日本テレビにいたし、小渕優子衆議院議員もTBSにいた。平井卓也デジタル大臣など、西日本放送の社長まで務めている。

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