確かに米国で、日本のアニメの存在はかなり知られるようになった。だがそのいかにも日本的なアニメは、「断固たる違い」のために、まだ市民権を獲得しているとは言い難い。ハリウッドで制作されるアニメーションとは、やはりかなり趣が違う。
とはいえ、今世界で人気になりつつあるデーモン・スレイヤーは、米国でもかなり有名な『千と千尋の神隠し』の興行記録を破って1位になったという事実だけでも、注目される可能性がある。
例えば、メキシコ出身で映画『シェイプ・オブ・ウォーター』でアカデミー賞映画監督のギレルモ・デル・トロは、日本のアニメ好きで知られる。彼は特に『千と千尋の神隠し』を気に入っていて、自分の映画『パンズ・ラビリンス』でも『千と千尋の神隠し』のような悲劇の描写を参考にしたと述べている。
デーモン・スレイヤーがその『千と千尋の神隠し』の人気を超えているとなれば、彼らが注目しないはずはない。しかも『千と千尋の神隠し』は17年にニューヨーク・タイムズ紙が21世紀映画のベスト25のうち、2位に選んでいる。
デル・トロ以外にも、アニメ好きの監督は少なくないので、自ずと多くのヒットメーカーらの目にとまることになるだろう。そこで評価され、彼らがどこかでその話でもすれば、さらに注目度が高まる。そうすればアカデミー賞のみならず、もっと広く大衆にもその存在が知られるようになるかもしれない。
デーモン・スレイヤーはビジュアルや内容からも、典型的な日本のアニメだといえる。そんなアニメがアカデミー賞をとるようなことがあれば、日本アニメはエンタメの本場である米国でもさらに飛躍することだろう。
山田敏弘
元MITフェロー、ジャーナリスト、ノンフィクション作家。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版に勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でフルブライト・フェローを経てフリーに。
国際情勢や社会問題、サイバー安全保障を中心に国内外で取材・執筆を行い、訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』(文藝春秋)、『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)、『CIAスパイ養成官 キヨ・ヤマダの対日工作』(新潮社)、『サイバー戦争の今』(KKベストセラーズ)、『世界のスパイから喰いモノにされる日本 MI6、CIAの厳秘インテリジェンス』(講談社+α新書)がある。テレビ・ラジオにも出演し、講演や大学での講義なども行っている。
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