崩れる金融事業モデル、その先にあるもの 〜JAMP大原氏に聞く(2/4 ページ)

» 2021年03月16日 08時32分 公開
[斎藤健二ITmedia]

――事業モデルが崩壊している。まずはその中でも厳しい状況にあるといわれる地銀について、どう見られていますか。

 地銀は、預金として預かった資金をバランスシートに乗せて、リスクを取って貸し出しをする事業モデルでした。ところが低金利の影響で利ざやが薄くなってきています。さらに、地域のお客さまの資金需要も細くなっています。結果、収入の先行きも厳しい状況です。

 過去1年、コロナ関連の制度融資があり、貸し出しボリューム自体は伸びました。今の貸し出し自体は政府保証が付いているので心配はないのですが、事業者の業績は必ずしも改善していません。数年後、傷んだ事業者の面倒をみなくてはいけないのは地銀です。

 これが利益をどんどん蝕(むしば)んでいきます。地銀は、地域金融の要であることは間違いなく、融資機能は持ち続けなくてはなりませんが、そこが全くもうからなくなるというアンハッピーなシナリオが見えてきています。

 フィールドが大きすぎて、「地銀にはいろんなことができますよ」と政府が整えているがゆえに、何をすればいいか分からない。それが地域金融を巡る大きな問題です。

――そんな中、地銀にはどんな選択肢があり、新たな事業モデルの可能性にはどのようなものが考えられるのでしょうか。

 先日、「地銀同士がくっついてもやっぱり地銀だ」という話をしました(記事参照)。これは、単に統合しても同じ事業モデルであって、変わらないということです。

 ゼロから新規事業を作るのは、金融機関に限らず難しいことは間違いありません。自分たちの強みを生かしながら、外部と連携しなくてはならないのです。その際、地銀の強みは地域からの信頼感にあります。例えば、資産運用コンサルティングを、システムは外部の資産運用会社と連携して行う形などが考えられます。

 これまでは、資金需要に対して融資というソリューションを提供して課題を解決してきましたが、今後はもっとソリューションの幅を広げて、例えば経営人材を紹介することなどが必要になるでしょう。また融資で資金需要に応えるのが難しければ、出資で対応する地域ファンドの形もあり得ます。その形なら、融資が難しい創業間もない企業にもお金を出せるようになります。

 これは地域商社的な形です。ふるさとショップ的なものではなく、仕入れから加工、販路の開拓、PR、そうした間接的な機能の提供を担うことで、商流を整理する。そんな役割が地銀には求められていくでしょう。

 今から5年10年経っても、人材紹介、資産運用、地域ファンドまで全部自前でできる地銀はまずありません。さらに比較優位の問題で、こうしたことが地銀よりも得意な事業者がいます。地方事業者の需要を固めて、事業者に回す役割のほうが地銀には求められるのではないでしょうか。異業態との連携が重要になります。

地銀の事業モデル転換には「比較優位の原則」活用がカギとなる(資産運用基盤開発グループ)

――事業モデルが変わる中では、銀行で働く人材や、必要なスキルについても変化が必要になりそうですね。

 こうした中では、銀行員に必要なスキルや強みとすべきポイントも変わってきます。今までの延長線上で、昔の銀行員にとって必要とされたものではなく、個人のお客さまのライフプランニングを聞く力や、iDeCo(個人型確定拠出年金)や保険など、深くではなく広く知るような力が必要になるでしょう。

 銀行員がこのように変わるためには、評価報酬制度の存在が重要です。現時点で既に、融資の先行きは厳しいと言いながらも、銀行員の花形は融資だという考え方があって、そこで評価されてしまいます。頭取が融資、審査部門から出てくれば、みんなそこを目指してしまうのです。システム部門や資産運用部門が重要だといっても、現状では傍流でしかありません。

 評価報酬制度の設計、経営陣の考え方が、銀行内のカルチャーや銀行員個々人の動き方に現れてくるでしょう。

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