崩れる金融事業モデル、その先にあるもの 〜JAMP大原氏に聞く(3/4 ページ)

» 2021年03月16日 08時32分 公開
[斎藤健二ITmedia]

――もうひとつ、手数料無料化など事業モデルが変化しつつある証券業について、どう見ていますか。

 地方銀行同様に、証券や資産運用も、従来の事業モデルがもうからなくなってきています。コロナショックの後に起こった株高もあって、現時点では売買ボリュームが増えていますが、緩やかに利ざやは落ちざるを得ません。今後進む手数料無料化によって、厳しくなるところもあるでしょう。

 つまり、証券業はボリュームを増やせばもうかる事業モデルではなくなってきているのです。ひとつひとつの商品がコモディティ化する中で、「顧客本位の原則」の改定によって、お客さまにお勧めするにあたって似た商品を確認して、これがベストかどうかということを見なくてはいけなくなります。

 その上、手数料低下圧力はさらに高まっていくでしょう。結果、売買ごとに頂く手数料であるコミッションや、預かり残高に対して頂くフィーでは全くもうからなくなります。資産運用も「どこでもうかるんだ?」ということになるのです。

 野村ホールディングスは、先日の戦略発表でどこでもうけるのかを明確にしました。アセットマネジメント領域について、上場資産での運用はもうからないからプライベートエクイティ(未公開株)でやろうということを以前から発信していましたが、それを組織として担保した形です。

 もうひとつの大手であるSBIホールディングスは、戦略的に手を打ってきています。対面窓口であるSBIマネープラザと証券プラットフォームを武器に、地銀などと提携を進めています。こうした動きを進めると共に、手数料無料化を打ち出し、トレンドを作り出しているのです。

 現状は、このトレンドをほかの証券会社もフォローしている状況です。

――証券のプラットフォーム化が進む中、プラットフォームをまるごと提供するのではなく、必要なパーツに分けて提供するエンベデッドファイナンスという動きも出てきました。

 決済や融資のプレーヤーは、裏側の機能を提供するプラットフォームの色彩を強めていくでしょう。決済や融資の機能は、普段の金融よりも購買行動につなげやすいからです。この動きは、BaaS(バンキング・アズ・ア・サービス)やエンベデッドファイナンスと呼ばれています。

 これは1つのチャンスではあります。一般生活者が、非金融事業者テリトリーで購買行動を行うのが前提ですが、そこに金融機能を提供するのは納得感があります。オンラインの世界で、ECサイトなどが購買行動と組み合わせて損害保険を売るなどは可能性があるでしょう。

 ただしすべての金融サービスが向くわけではありません。証券会社がエンベデッドファイナンスということを声高にうたい、非金融事業者と組んで、気づかないよう証券運用サービスを提供するのはファンタジーです。難しいと思います。

 事業者やユースケースがまったく異なるからです。資産運用は、お客さまといっしょに将来のイメージを作って、そのためにはこういう資産運用をしようというのが本流です。エンベデッドファイナンスとの親和性は比較的低くなります。損害保険は組み込みやすいが、生命保険は親和性が低いということです。

各金融サービスの特徴。新潮流であるエンベデッドファイナンスとの親和性も異なる(資産運用基盤開発グループ)

 なんらかの形で、金融の専門家のサポートを受けながら、生命保険に入ったり資産運用したりするのがメインストリームなのは間違いありません。そして地銀や保険会社は、資産運用アドバイスの経験がないので、プラットフォーム側でサポートが必要になります。このとき、人を出して、対面での提案をサポートできる証券事業者は少ないのが現状です。

 証券や保険といった商品別ではなく、対面サポートが必要な領域や、ECなどと組み合わせて提供できる領域といった機能別に分かれていくでしょう。

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