認知症の金融資産をどう守る? 家族信託をITで民主化するファミトラ(2/3 ページ)

» 2021年03月25日 07時00分 公開
[斎藤健二ITmedia]

後見人制度の課題

 認知症の人の資産凍結への対処法がなかったわけではない。認知・判断能力が不十分な人を支援する制度として、民法が定める成年後見制度がある。これは、契約ができない本人に代わり代理で契約を行えるようにする仕組みだ。財産管理だけでなく、老人ホームへの入居手続きや身の回りの世話などの身上監護をまるごと任せなければいけない。

 しかし制約も多い。三橋氏は「通帳から印鑑からまるごと預ける感じ。名目上、本人の資産を守るのが後見人の役割としてあるので、被後見人が息子や孫に教育資金をあげようと思っても、『それは被後見人本人のためではない、他人のためですよね』となってしまう」と、課題を指摘する。

 コストも大きい。後見人を選んで指名するのは家庭裁判所だが、ほぼ弁護士が充てがわれる。判断が中心の業務なので多くの時間は使わないが、一般的な場合で月額2万から6万円、資産規模が5000万円以上ともなると月額6万円もの費用が、被後見人の資産から支払われる。

 認知症になって金融機関や司法書士が意思決定能力がないと判断すると、地域包括センターから家族に後見人の勧めが来る。そのまま、後見人の申立を家庭裁判所にしてしまうと、あとは後見人次第だ。どんな人が後見人に選ばれるのかは分からず、一度つけると当人が亡くなるまで、その後見人が継続してしまう。

 家族からすると見ず知らずの弁護士に多額の費用を払った上で、その資産の使いみちについては弁護士の了解がないと使えない状態になるわけだ。

家族に財産を託す「家族信託」

 認知症の人自身にとっても、これは願った状況ではない場合もあるだろう。こうした事態にならないために活用できるものの一つが家族信託と呼ばれるものだ。認知症にかかる前に、現金、不動産、有価証券などを信託財産として、管理、処分する権利を家族に託す仕組みだ。

 家族信託を使うと、本人が認知症になっても、家族が問題なく家を売ったり定期預金を解約したりできる。資産を家族にあげてしまうと贈与になってしまい、贈与税が発生するが、家族信託ならば、財産から生まれる収益は受益権ということで本人に残るので贈与税は発生しない。

 解決策の1つと目される家族信託だが、問題は契約の自由度が高すぎる点にある。「なんでもできてしまう。事業承継もできるし遺言にも使えるし遺産相続にも使える。100点満点の家族信託を作ろうと思うと、いろいろな分野の知識が必要になってしまう」(三橋氏)

 家族信託を取り扱うのは主に司法書士だが、国内2万3000人の司法書士のうち家族信託が設計できるのは「数百人くらいしかいないのではないか」と三橋氏は言う。オーダーメイドで契約を作る仕組みのため、ヒアリングから含めて期間は半年、通常100万円、200万円ほどのコストがかかる。

 公正証書による家族信託の件数は、いまだ年間3000〜5000件程度。累計でも数万のオーダーでしかない。一方で、認知症の人の数は700万人をすぐに超える見込みだ。現時点では、完全な解決策にはなり得ていない。

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