ワコールでは、下着や洋服は動きを持つ身体を「包む」ものだと考えて測定している。測定で重要なのは、容積だという。
篠塚氏は「肩のサイズを測るにしても肩のどのポイントを始点にするのか、その定義を決めるのは難しいものです。そこで、当社は距離ではなく質量に着目し、5秒間に150万の点群を計測して体の質量や体積まで測定することで正確性を補っています」と説明する。
スキャナーは全国のワコールで16店舗に導入されており、20台が稼働している。専用下着に着替える時間を除けば、約5秒で全身の採寸データが測定できる。測定後、利用者は専用タブレットから3Dデータや体形の特徴が確認できる。さらに下着の悩みや好みのヒアリング項目に回答。そのデータを掛け合わせ、最適なアイテムをAIが提案する。
「自分の体が客観的なデータで“ありのまま”に可視化されるので、最初にショックを受けるお客さまも多いです。しかし、この体験が理想のボディーを目指すモチベーションにつながるようで、定期的な計測をするためにリピーターとなるお客さまもいらっしゃいます。また、近年は自分に本当に合ったものを知りたいという傾向が強くなっています」(下山氏)
同社はスキャナーでの測定体験に加えて、アバターを通して接客するサービス「パルレ」を2020年10月から開始している。現在は東急プラザ表参道原宿店で展開しており、1カ月先の予約が埋まるほどの人気だ。
パルレではカウンセリング専用の個室で、アバターが利用者の要望や悩みをヒアリングする。アバターの「中の人」は遠隔の販売員だが、デジタルのキャラクターを通して会話することで、「アバターだと圧が無く話しやすい」「恥ずかしい体の悩みも相談できるようになった」と利用者からポジティブな声があがっているという。
パルレの導入によって、商品提案でのヒアリングから生じる客のストレスが軽減したほか、予約制にしたことで「店頭に入りづらい」「忙しそうで店員に声をかけづらい」といった接客時の課題も改善した。
同社は高度成長期以降、2度の成功を経験した。1度目は1960年代の百貨店拡大に伴う成長、そして2度目は80年代の量販店の拡大による成長だ。百貨店や量販店の販売チャネルを持つワコールも、市場拡大に伴い大きく成功を収めた。
しかし、90年代後半に百貨店や量販店の売り上げは低迷、国内の衣料品全体の市場規模も減少を始める。「今振り返ると1997年が、世界が一変するターニングポイントだった」と下山氏は分析する。
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