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デジタル払い、前払い……新たな給与支払いの方法を押さえておこう注意点は(2/4 ページ)

» 2021年05月18日 09時15分 公開
[企業実務]

(1)賃金支払いの5原則

 毎月の給与の支払いは、労働基準法24条にある図表1の原則にのっとっています。

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 端的に言うと、「労働者に対して毎月1回以上、決まった日に日本円の現金で直接全額給与を支払わなければならない」わけです。

 しかし、実際には、従業員の銀行口座への振込による支給が大半です。これは、労働基準法施行規則7条の2により「労働者の同意が得られれば、金融機関の預貯金口座に振り込んでもよい」とされているためです。

 ただし、デジタル払いの場合はそれが適用されません。「○○ペイ」などの電子マネーを扱う業者は資金移動業者であり、金融機関ではないため、例外規定の対象とならないのです。

(2)給与のデジタル払いは「例外の1つ」になる予定

 給与のデジタル払いの壁を阻んでいるのは、賃金5原則の1つ「通貨払い」です。現在、「通貨払い」の例外として銀行や証券会社等の金融機関の口座への振込が認められていますが、資金移動業者が管理する電子マネー口座は含まれていません。厚生労働省は現在、この例外に電子マネーを加えることで給与のデジタル払いを実現しようとしています(図表2)。

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 ただし、給与のデジタル払いはあくまでも選択肢の1つとして設けられ、従業員の自由選択に委ねられる予定です。銀行振込を行う際、従業員の同意が求められますが、電子マネー口座への支払いも同様に同意を得てから行われることになります。

 また、給与は、「一部をA銀行に、残りをB銀行に」など、複数の口座に振り込むこともできます。これを踏まえつつ、「100万円超の入金は銀行口座のほうがより安全」という配慮から、厚労省では二者択一ではなく、「給与25万円のうち20万円は銀行振込に、残りは○○ペイに」といった併用を企業に求める模様です。

(3)前払いは「非常時」「既往の労働分」だけ

 給与の前払いについては、労働基準法25条で、次のように限定されています。

 「使用者は、労働者が出産、疾病、災害その他命令で定める非常の場合の費用に充てるために請求する場合においては、支払期日前であっても、既往の労働に対する賃金を支払わなければならない」

 ここで押さえたい点は、次の2つです。

 1つ目は、「非常の場合」の意義です。次のような事態が「非常の場合」に該当します。

  • 出産した場合
  • 疾病にかかった場合
  • 災害を受けた場合
  • 結婚した場合
  • 死亡した場合
  • やむを得ない事情により1週間以上帰郷する場合

 この6つのいずれかに該当するなら、前払いしないといけません。逆に、「ギャンブルで負けすぎて」「借金の返済に追われて」といった理由であれば、無理に支払わなくてもよいこととなります。

 なお、同法施行規則9条では、労働者の収入によって生計を維持する者に非常事態が生じたケースも含むと規定しています。「労働者の収入によって生計を維持する者」は、親族か否かを問いません。そのため、当該労働者の収入を生活の糧としているなら親族でなくてもよいのです。逆に、別生計なら親族でも対象から外れます。

 2つ目は、前払いする給与が「既往の労働に対する賃金」であることです。

 「既往の労働」は「すでに行った労働」のことです。非常時払いの対象となるのは「前回の支給日以後に労務を提供したものの、次の支給日以前であるために未払いとなっている賃金」に限られるのです。請求があった日までに労務の提供があったなら、その分も非常時払いに含まれますが、労務の提供がない分は非常時払いの対象にできません。それでも支払うならば「(会社やサービス運営会社からの)貸付金」に該当します。

 「どのような賃金を非常時払いにできるか」は賃金の性質によって異なります。既往の労働には残業代や各種手当が含まれますが、賞与や退職金の前払いは就業規則や労働契約次第です。

 「賞与の金額は基本給の3カ月分とする」といった規定が就業規則等にあるなら、「既往の労働」に対する金額を算定できるので非常時払いも可能です。

 「会社の業績や労働者本人の勤務成績、貢献度等が賞与算定の基準になる」と定められているのなら、既往の労働分の賞与を客観的に算定できず、非常時払いの対象から外れることになります。

給与のデジタル払いの注意点

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