社会保険料の徴収は変わりません。しかし「就業規則を整備する」「給与の支払い方法に関して銀行振込だけでなくデジタル払いも選択肢として提示する」「ペイロールカードを管理する」といった手続きが加わります。
「今月は『○○ペイ』に5万円送ってほしいけど、来月は『△△ペイ』に振り込んで」と従業員からの依頼があったら、さらに手間が増えます。つまり、給与の受取先の選択肢が増えれば増えるほど、総務や経理の事務負担が大きくなるのです。二重払いなどのミスが頻発するかもしれません。
所得税や住民税の源泉徴収や年末調整事務は従来通りです。
しかし、外国人労働者を雇用している場合は、月々の源泉徴収や年末調整での配偶者控除や扶養控除が問題になります。
現在、扶養している配偶者や親族が国外在住であるならば、次のような「親族関係書類」「送金関係書類」を提出しなければ控除できないとされているからです。
送金関係書類は、その年における次のいずれかの書類です。海外に住む親族それぞれに生活費や教育費を必要の都度送ったことを証明するものです。
問題は「送金関係書類」です。外国人労働者が「電子マネーで家族に送金したい」「所得控除を受けたい」と言うのなら、事業主は慎重に要件を確認しなくてはなりません。
まず送金手段です。ここでいう「金融機関」には、資金決済に関する法律2条3項に規定する資金移動業者も含まれます。海外送金時に利用する電子マネーアプリの資金移動業者が登録業者であればよいですが、そうでなければ、控除できません。
次に送金の証明書類です。登録事業者の電子マネーで送金しても、次の必要事項の全てを記載した送金関係書類がなければ、控除できません。
送金者や受領者がニックネームで表示されるなら、決済アプリの明細書をスクリーンショットしたものは送金関係書類にできません。適正な送金証明を資金移動業者から発行してもらう必要があります。それが面倒なら、金融機関から送金するか、家族カードを使ってクレジット払いを家族にさせ、送金依頼書や利用明細書を提出するしかないのです。
給与のデジタル払いの目的の1つに、日本の銀行の口座開設ができない在日外国人の利便性向上がありますが、彼らが日本で働く理由の多くは、母国にいる家族を養うためです。電子マネーで給与を受け取れても、送金の事実が認められず控除できないのなら、外国人労働者とトラブルになるかもしれません。
© 企業実務
Special
PR注目記事ランキング
編集部おすすめブックレット