コロナなのに高級品が飛ぶように売れている! 富裕層を動かす「消費の玉突き現象」の正体行動制限がきっかけ(5/5 ページ)

» 2021年05月25日 05時00分 公開
[岩崎剛幸ITmedia]
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コロナ禍ならではの「消費の玉突き現象」

 コロナ禍によって、さまざまな行動が制限されています。日本から海外、地方から東京・大阪といった大都市への移動も減りました。

 こうした移動制限は消費者にとってはほぼ初めての経験でした。富裕層は時間とお金に余裕がありますから、本来は国内外の旅行にどんどん出かけたいのです。しかしそれが難しい状況が続いているため、結果的に「消費の玉突き現象」を起こしています。

消費の玉突き現象図

 海外旅行に行けない超富裕層は、東京や横浜、大阪などの大型百貨店で買い物をせざるを得なくなりました。外商営業担当に依頼し、海外ブランドのコレクション商品などを手配。百貨店のVIPルームで個別対応の接客を受けます。他の顧客との交わりはなく、自分だけのために用意された洋服や宝飾品などの中から、好きなものを購入します。こうして、富裕層は多額の消費をするのです。

 東京に出られない地方の富裕層や準富裕層は、地元の百貨店やブランドショップで買い物をします。結果的に地方百貨店の高級時計、宝飾品、絵画、美術品などは20〜21年にかけてよく売れています。また、地方では高級車の販売や高級旅館の予約も好調です。本来は都会で使うはずだったのに、お金が地方へと回っているのです。

 そしてアッパーマスやマス層は、ECサイトやケータリング、デリバリーを多用するようになりました。結果、EC通販は20年に大きく売り上げを伸ばしました。

 本来は海外で使われるはずのお金が国内都心に、都心で使われるはずのお金が地方に、地方で使われるはずのお金と都心在住の消費者がリアルに百貨店や商業施設で使うはずだったお金もネットに流れて、ネット通販各社の売り上げは大幅に伸びています。これを私は「消費の玉突き現象」と呼んでいます。コロナ禍ならではの消費特性ではありますが、移動が制限されている間、この傾向は続きます。日本のワクチン接種状況が遅れれば遅れるほど、この消費スタイルは続くことになります。

 「富裕層の人口増加」と「富裕層の買い方の変化」――これが今の高級品市場を支える要因なのです。

 とは言っても、日本の消費支出は20年でマイナス4.7%。可処分所得は増えているのに、貯蓄率は3%ほど増加しているのが実態です。まだまだ消費は戻っていないのです。

 今後、ワクチン接種が進み、人の移動が始まれば今まで貯めていたお金が消費にまわるのは確実です。すでにワクチン接種が進んでいるニューヨークやロンドン、ミラノなどの一部の都市では「トラベルバブル」が起きています。日本も接種が進めば確実に旅行需要が増えて、消費が活発になるでしょう。しかし、完全にそのような動きになるのは22年から23年だろうというのが大方の予測です。しばらくはこのような不透明な状況が続くのです。

著者プロフィール

岩崎 剛幸(いわさき たけゆき)

ムガマエ株式会社 代表取締役社長/経営コンサルタント

 1969年、静岡市生まれ。船井総合研究所にて28年間、上席コンサルタントとして従事したのち、同社創業。流通小売・サービス業界のコンサルティングのスペシャリスト。「面白い会社をつくる」をコンセプトに各業界でNo.1の成長率を誇る新業態店や専門店を数多く輩出させている。街歩きと店舗視察による消費トレンド分析と予測に定評があり、最近ではテレビ、ラジオ、新聞、雑誌でのコメンテーターとしての出演も数多い。

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