りそなホールディングス(HD)がDX(デジタルトランスフォーメーション)を積極的に導入して銀行改革を大胆に進めている。
DXを通じて次世代リテールサービスの構築を目指す同社は、金融機関の中で唯一、経済産業省が東京証券取引所と共同で選定した「DX銘柄2020」に選ばれた。南昌宏りそなHD社長のインタビューをもとに、りそながデジタル時代を先導してどこに向かおうとしているのかを2回にわたりお届けする。
前編は、リテール(中堅・中小企業+個人向け金融)ナンバー1の実現に向けた銀行改革の流れを振り返る。
南社長とのインタビュー場所は、メガバンクなど大手の金融機関が本店を構える東京・大手町ではなく、都心から外れた江東区木場だった。
りそなHDは大手町にあった本店を2008年に売却、10年にフジクラ(旧藤倉電線)の工場跡地に引っ越した。普通なら金融センターからの転居で行員はモラールダウンするところだが、公的資金の返済を優先していたりそなに大手町に居続けなければならない理由はなかった。
1000億円を超える売却益による財務基盤の強化だけでなく、この意思決定により、本社部門の生産性や創造力の向上、リテール分野への戦略投資など、改革のスピードを上げ、15年には公的資金を完済した。
身軽になったりそなグループの改革は、これで勢いが増した。少子高齢化、低金利により利ザヤが縮小し、銀行業界が大きく変わろうとしている中で、同社の改革は先頭を走っている。そのカギを握るのがDXと呼ばれるデジタル技術を活用した銀行業務の効率化とともに顧客に新しい価値を提供することだ。旗振り役を任されたのが南社長だった。
15年にオープンしたばかりの東京の臨海部にある豊洲支店を見学したことがある。デジタル化のモデルにしようとしたこの店舗では、印鑑を使わないように事務処理を抜本的に見直した。従来店舗より少ない事務員で事務処理ができるように業務プロセスを改革したという。
この「印鑑レス」の流れは現在、りそなグル−プの全店に普及している。南社長は「りそな銀行と埼玉りそな銀行が中心だが、いまは新規の口座開設のうち80%が『印鑑レス』になっている。手続きが煩雑で印鑑をいくつも押印していた住宅ローンも申込から契約・決済までアプリで完結することもできるようになった」と話す。
2004年から始めた「書かせない」「待たせない」「(印鑑を)押させない」という「3ない運動」がきっかけだ。店舗で来店客に記入させることを省略、簡素化し、業務をスピードアップすることで待たせないようにし、印鑑はできるだけ押さないで済むように業務の見直しを進めた。「デジタル化の進化により業務プロセスの『断捨離』を進めた上で、お客さまの顧客体験を大きく変えながら、その裏側で圧倒的なコストダウンを実現していきたい」と話す。
店舗の日々の事務処理をするバックヤードは共通なので、これをりそなグループが同じ方式でデジタル技術を活用して実現すれば、大幅なコスト削減につながるというわけだ。
次にデジタル化を加速する原動力になったのが、18年に導入した「りそなグループアプリ」と呼ばれるスマートフォンを使ったアプリだ。「いつでも」「どこでも」をコンセプトに簡単・便利を重視して作ったこのアプリは文字通り「歩く銀行」で、シンプルな画面デザインと使いやすさにこだわって開発した。口座残高、入出金明細の確認や振り込みなど、現金引き出し以外の大半の取引がスマホにタッチする簡単な操作だけで完結する。
そのかいあって、アプリの利用者数は順調に増加、南社長は「グループで3月末現在で約360万ダウンロードされている。アプリの利用回数は店舗に来られる回数より多くなっている。このアプリにより、これまで得られなかったお客さまとの新しい接点を持つことができた。24時間、お客さまとつながっているという意味は大きい。
いまは普通預金だけでなく、定期預金、外貨預金などの取引もインターネットででき、手のひらに銀行の支店があるイメージだ。月間アクティブユーザーの84%がこのアプリを使ってくれている」と話し、アプリの利便性と新たな可能性に手応えを感じている。
スマホを起点とした銀行の新しい個人向けビジネスモデルが当たり前になりつつある。キャッシュレス社会が加速すれば、買い物やタクシーに乗るのもスマホで決済できるようになり、現金を使わなくてよくなる。そうなればますます、銀行の支店やATM(現金自動預払機)に出向く必要はなくなるのだ。りそなの動きはこの変化を先取りしようとしている。
南社長は「デジタルの技術進歩により、銀行業務のバックヤードの事務を担ってきた1万人以上のミッションを解放することができる」と指摘したが、この『解放』という言葉の意味は大きい。銀行の支店窓口には最前列に窓口担当がいて、その後ろにその日の出納業務を点検、確認する行員がいる。さらにその後ろに最終的なチェックをする行員が控えるなど、お金を取り扱うことに人手が掛かっていた。
この事務処理の大半を機械が処理してくれれば、こんなに楽なことはない。数十年前に銀行の支店は、その日の出金と入金取引が1円でも合わないと、合致するまで行員が家に帰れなかったというのは、遠い昔の笑い話になった。
「解放」された行員については「お客さまと話し、相談活動をする側に回ってもらうと同時に、新しいビジネスの担い手になってもらう」と述べ、新しい時代に向けて経営資源をシフトする動きが既に始まっている。
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