鉄道と脱炭素 JR東日本とJR西日本の取り組み杉山淳一の「週刊鉄道経済」(8/9 ページ)

» 2021年06月04日 09時02分 公開
[杉山淳一ITmedia]

JR東日本の火力発電も「みなしCO2ゼロ」へ

 太陽光発電は鉄道事業者が最も取り組みやすい電力供給源だ。駅舎やプラットホームの屋根にソーラーパネルを設置する事例は多い。大規模ソーラー発電所の取り組みも始まっている。JR西日本の厚狭太陽光発電所は、年間で約510万キロワットアワー、一般家庭の約1020世帯相当の電力を供給する。JR東日本も福島県で「富岡復興メガソーラー・SAKURA」事業に参画、東北各地で風力発電を手掛ける。

 JR西日本を始め多くの鉄道事業者は「電力を使うからCO2排出量ゼロ、発電のCO2排出は責任範囲外」だ。しかし、JR東日本は国鉄時代に使っていた発電所を継承している。首都圏の電車の電力を自社生産してコストを下げる目的だ。新潟県に信濃川発電所、神奈川県に川崎火力発電所がある。信濃川発電所は水力、つまりもともと再生可能エネルギーだ。問題は川崎火力発電所だ。電力の上流を脱炭素化しないとCO2排出量ゼロを達成できない。

 JR東日本の資料によると、川崎発電所は2つの方法でCO2排出量ゼロに取り組む。1つは水素発電、もう1つは「カーボンニュートラルLNG火力発電」だ。

 水素発電は水素エンジンと同様、水素を燃焼して発電用タービンを回す。ただし水素発電用に設備を更新する必要があり、初期コストは大きい。そこで既存の発電設備の一部を改良し、現在の燃料のうち2割から3割を水素と混合させる仕組みもある。これは過渡期の手法といえる。

 「カーボンニュートラルLNG火力発電」は、現在のLNG(液化天然ガス)発電設備をそのまま使える。燃料はLNGだ。CO2を排出する。その代わり、排出する分だけ、CO2を吸収する事業を実施する。例えばロイヤル・ダッチ・シェル社のカーボンニュートラルLNGは、天然ガスの採掘、輸送、燃焼などで排出されるCO2と同等のCO2を吸収するため、世界各地で植林、森林保全などを実施する。その費用をLNGの価格に上乗せする。つまり、排出されるCO2の処分料金を負担する。これで実質的にCO2はプラスマイナスゼロになる仕組みだ。

 いずれ完全に水素発電に移行するとしても、それまではカーボンニュートラルLNG火力発電を使って既存施設を有効利用し、設備投資コストを分散させる。

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