クルマはどう進化する? 新車から読み解く業界動向

トヨタTHSは、どうして普及しないのか そのシンプルで複雑な仕組みと欧州のプライド高根英幸 「クルマのミライ」(3/5 ページ)

» 2021年06月07日 07時00分 公開
[高根英幸ITmedia]

 これをクラッチなどの動力断続機構を使わず(ただしプリウスPHVは、MG1も走行用モーターとして利用するためにワンウェイクラッチを備える)にモーターと遊星ギアだけで行っているところがユニークなのである。

 モーターをモーターとして使うだけでなく、ある時は発電機、ある時は変速機、ある時はブレーキ(回生ブレーキではなく、サイドブレーキ)としても利用する。これによってエンジンの負荷状態を常にコントロールして、燃費の良い状態にエンジンを導く(念のために解説するが、エンジンは負荷が少ないほど燃費が良いわけではない)のだ。

 1995年、最初に発表されたプリウスのプロトタイプには、この動力分割機構は搭載されておらず、1モーターのパラレルハイブリッド(エンジンとCVTの組み合せをモーターでアシスト)だった。実はこの頃にはTHSの試作車は完成していたのだが、まだまともに走れる状態ではなく、新技術として発表できるような代物ではなかったらしい。さらに他社もハイブリッドを研究していたことから、手の内を明かしてしまうのは危険、という判断もあった。

 ともあれ、そこからわずか2年でTHSを完成させたのだから、基礎研究は進められていたとはいえ、驚異的なスピードだ。そしてその完成度も素晴らしいことに、トヨタのエンジニアたちの情熱を感じる。

 もっとも自動車メーカーによるハイブリッドの研究は、もっと前から行われていた。例えば戦後トロリーバスという架線による電力供給を行っていたこともあって、バスはEV化を含めて電動化が検討されており、日野自動車は70年代後半からハイブリッドバスの研究を始めていた。

 当初はエンジンが発電機を回し、その電力でモーターを駆動して走行するシリーズハイブリッドが研究され、その後80年代に入りパラレルハイブリッドに研究が進み、89年にはトヨタに先駆けてハイブリッドバスを実用化している。

 トヨタも68年からガスタービンエンジンによる発電のシリーズハイブリッドを研究してきたが、本格的な研究は90年代に入ってからのことだ。当時80点主義といわれ、優れたクルマや魅力あるクルマよりも、売れるクルマに特化していたトヨタが変わり始めたのは90年代に入ったあたりのこと。その頃、EVやFCVも同時期に研究開発に着手している。そしてシリーズ、パラレルどちらの魅力も捨て切れないことからTHSが考え出されたのである。

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