クルマはどう進化する? 新車から読み解く業界動向

トヨタTHSは、どうして普及しないのか そのシンプルで複雑な仕組みと欧州のプライド高根英幸 「クルマのミライ」(4/5 ページ)

» 2021年06月07日 07時00分 公開
[高根英幸ITmedia]

トヨタTHSの複雑さへの対応に苦慮してきた例

 トヨタ以外の自動車メーカーがTHSを採用したケースは、これまで2例しかない。それはマツダが現在のMAZDA3の先代モデルにあたるアクセラに設定したハイブリッドである。今から5年ほど前、発売当時の試乗会で、その開発を担当したエンジニアに話を聞く機会があった。

 アクセラ・ハイブリッドに搭載されたエンジンは、2リットルのSKYACTIV-G。しかし、その最高出力は通常のアクセラ20の155ps(114kW)に対して、99ps(73kW)。これなら111ps(82kW)を発生する1.5リットルエンジンを搭載してもいいのでは、とエンジニアに尋ねたのだ。

 すると返ってきたのは、このエンジンスペックは30プリウスの1.8リットルエンジンに特性を合わせた結果で、1.5リットルエンジンではそうした余裕がないということだった。つまり、アクセラ用にTHSを最適化して搭載したのではなく、吊るしのTHSにアクセラのエンジンを組み合わせたのである。

 トヨタから技術供与を受け、サプライヤーからはTHSシステムのハード面を供給されたものの、その制御が複雑過ぎてハイブリッドシステムには変更を加えることができず、エンジン側を、すでに完成されたTHSに合わせるしか方法がなかったのだそうだ。

 そうして作り上げられた最初の試作車は、「世界一遅いハイブリッド」と社内で呼ばれるほど、アクセルペダルに対する反応が鈍く、走らないクルマだったと聞いている。おそらくエンジンとモーターを使った全負荷での加速に、上手くエンジンの特性を合わせることができていなかったのだろう。しかしそこからエンジン側の制御や足回りなど、人間の感覚に沿わせるためにさまざまな改良を行い、まずますの内容に仕上がった。

 特に息の長い加速をする時や、ハンドリングの素直さなど、当時の30プリウスにはなかった走りの魅力を備えたTHS搭載車に仕上がったのだ。これがトヨタにTNGAを創設させるきっかけとなり、現在の50プリウスのハンドリングの良さにつながっている、ともいわれている。

 また、別の角度からもやはりTHSの制御の難しさを実感する話を聞いたことがある。これはアクセラ・ハイブリッドよりもっと前のことだ。

 当時懇意にしていたレーシングドライバーがプリウスで耐久レースに出場することになり、プリウスのTHSの制御を耐久レース向きに仕様変更しようと、トヨタから制御に関する資料を送ってもらったそうだ。するとチームには段ボール1箱分の書類が届き、その複雑さからレースエンジニアはTHSについては手を付けることを諦めたそうだ。

 さてTHS搭載市販車のもう1つの例は、スバルが北米向けのフォレスターに採用しているTHSを組み込んだ縦置きCVTだ。これはトヨタがレクサスやクラウンに採用している縦置き型THSとは異なり、横置き型のTHSの構造を利用しており、非常にユニークなものだ。こちらは専用開発されているからアクセラのような不自然さはない。しかしコストの関係から日本市場には投入されていないのは、やや残念である。

北米仕様のフォレスターに採用されているハイブリッド用のトランスミッション。チェーン式CVTではなく、THSの電気式CVTを利用している。上段がエンジン出力軸から遊星ギア機構&MG1、中段が減速ギアとMG2を経て後輪に出力、下段が前輪への出力となっている3軸構造だ

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