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特権階級? 「勝ち組的トンデモ発想」が生む、就活セクハラの闇河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(3/3 ページ)

» 2021年06月11日 07時00分 公開
[河合薫ITmedia]
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 セクハラの行為者としては、「インターンシップで知り合った従業員」が32.9%と最も多く、次いで「採用面接担当者」(25.5%)、「企業説明会の担当者」(24.7%)。男女別では、「企業説明会の担当者」「学校・研究室等へ訪問した従業員、リクルーター」 などは男性の方が割合が高く、「インターンシップで知り合った従業員」「志望先企業の役員」 は女性の方が高かったとされています。

 「志望先企業の役員」が女子学生にとは……、空いた口がふさがりません。

 コミュニケーション下手の男性が、さしたる自覚もなくついうっかりやってしまう類のものとは大きく異なります。もちろんそれはそれで許されない行為ではありますが、会社の“顔”でもある役員が、自らの優位性を背景に弱い立場の学生に手を出すだなんて、到底許される行為ではない。

 情けないやら、あきれるやら。まさか、20年6月から大企業で義務化された「パワハラ防止法」で、雇用関係がない就活生への防止措置が「努力義務」になっているから? 社員を誘ったら、即刻問題になるけど、就活生ならグレーだと軽く見た? そんな疑念すら湧いてきます。

 とにもかくにも、“特権階級”=正社員、による「何をやっても許される」という「超勝ち組的トンデモ発想」の根深さが、今回の事件と調査結果から垣間見えることは歴然たる事実といえるでしょう。

 以前、ある大企業に就職した学生が、研修会で「キミたちはえりすぐりのエリートだということを忘れないでほしい」と言われたと話してくれたことがあります。「会社の廊下でも、外の道路でも、真ん中を歩け!」と。話を聞いたときは失笑してしまったけど、要は「キミたちは最上級の階層に属する人間である」と言いたかったらしいのです。

「超勝ち組的トンデモ発想」を生むエリート意識(提供:ゲッティイメージズ)

 会社の知名度や規模、収入や役職、社会的地位などの“外的な力”は、人の生きる力を強め、満足感を高めるリソースであり、それ自体は何ら悪いものではありません。しかし、外的な力を過信し、偏重するあまり、謙虚さや誠実さなどの内的な力が低下していくことは往々にしてあります。

 特に、格差が拡大し、非正規雇用も増えた社会では「超勝ち組的トンデモ発想」を持つ大馬鹿モノは量産されがちです。

 社員が「エントリーシート添削」だの「内定」という“人参”をちらつかせながら、学生に「個人的」に会うような行為を、企業は絶対に放置してはなりません。社内のルールを徹底し、そうした行為の余地がないように定期的に見直すべきです。

 学生たちは「未来の自分たちの仲間」かもしれないのです。セクハラなど、言語道断です。

 そして、学生たちには「学生を守れない会社に未来はない」ことを分かってほしいです。

河合薫氏のプロフィール:

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 東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。千葉大学教育学部を卒業後、全日本空輸に入社。気象予報士としてテレビ朝日系「ニュースステーション」などに出演。その後、東京大学大学院医学系研究科に進学し、現在に至る。

 研究テーマは「人の働き方は環境がつくる」。フィールドワークとして600人超のビジネスマンをインタビュー。著書に『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアシリーズ)など。近著は『残念な職場 53の研究が明かすヤバい真実』(PHP新書)、『面倒くさい女たち』(中公新書ラクレ)、『他人の足を引っぱる男たち』(日経プレミアシリーズ)、『定年後からの孤独入門』(SB新書)、『コロナショックと昭和おじさん社会』(日経プレミアシリーズ)がある。


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