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博報堂出身のクリエイティブディレクター、GO三浦崇宏さんに聞く「広告業界の問題点」 炎上をいかにして回避するか『「何者」かになりたい 自分のストーリーを生きる』【後編】(3/4 ページ)

» 2021年06月25日 08時00分 公開
[鳥井大吾ITmedia]
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広告クリエイティブの舞台裏

――広告は表現の仕方によって度々、炎上しています。三浦さんは広告を制作する際に気を付けていることはありますか?

 モラルがアップデートされていて、5年前であればスルーされていたことが現在では問題になるケースが出てきています。しかしこれは、現在のモラルが厳しくなったのではなく、昔はスルーされていただけなのです。傷ついていた人、悲しんでいた人は以前から確実にいました。考え方を変えれば、傷つく人が声を上げ、世間に届くようになったのです。個人でも声をあげ、闘うことができるようになったことは良いことだと思います。

 ぼくが広告を作るときは、この企画で傷つく人はいないかを最大限に配慮をするようにしています。ただ、結果的に問題が起きる可能性は十分にあります。だからクリエイターとしてなぜこの広告表現にしたのかを説明できないといけません。どんな議論を経てこの表現に至ったのか。この表現によって傷つく人がいるかもしれないが、その可能性を考慮してもこの表現がふさわしいと思った理由、思考の流れを共有することが大切です。

――どのように思考の流れを共有するのですか?

 ぼくが普段やっている広告の仕事というのは基本、相談にのることから始まるんです。出来上がったポスターやCMなどはその結果として世に出たものに過ぎなくて、まずはクライアントの相談にのって一緒に悩んで考えることが、一番大事な仕事なんです。

 だから、うちの会社のスタッフにもよく「俺たちは業者になっちゃダメだ。医者にならなくてはダメなんだ」と言っています。

 「業者」ならば、発注元(クライアント)から言われたことをその通りやるのが仕事でしょう。でも、ぼくらの仕事はそうではありません。「うちの会社の広告ポスターをつくって」と言われたら、まずクライアントの悩みの根本や希望をじっくり聞いて探っていく。その結果、「この製品は主に若い世代に向けて届けたい」といった本音や願望が絞られてきたところで、それに応えるべく、もっともいい回答、対処法を探っていく……いわばカウンセリングに近いんです。

 「じゃあ、今はこういうものが若い世代に流行っているから、この要素をいれましょう」と提案=処方するような感覚です。だから「俺たちは医者になんなきゃダメだよ」と言うのです。

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