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博報堂出身のクリエイティブディレクター、GO三浦崇宏さんに聞く「広告業界の問題点」 炎上をいかにして回避するか『「何者」かになりたい 自分のストーリーを生きる』【後編】(2/4 ページ)

» 2021年06月25日 08時00分 公開
[鳥井大吾ITmedia]
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目の前の人に嫌われる仕事をしてはいけない

――広告業界全体を見渡すと、近年は広告以外の仕事を手掛けている会社も増えています。例えば博報堂は、東京都の時短要請の協力金を審査する事務局の業務を受託していて、200億円の予算が計上されていることも報じられました。他にも自治体の仕事は増えているようにも思えますが、こうしたビジネスモデルの移り変わりについて、どう見ていますか?

 日本の現状を見ると、今後も人口は減っていきます。また、新聞やテレビなどマスメディアの影響力も落ちています。そんな中で企業としての成長を考えたとき、今までとは違う顧客の開拓やビジネス展開が求められることになりますね。広告会社は高度なクリエイティブやマーケティングのナレッジに加えて、優秀で仕事熱心な社員を多く抱えています。その価値を横展開することを考えたとき、クライアントを大手企業からスタートアップや地方自治体に展開していくことは必然のように思います。

 時短要請に関する事務局を博報堂が受託している個別案件について、その金額が適正なのか、民間企業が飲食店の支援金審査を適切に判断できるかどうかについては行政の問題であり、私は言及する立場にありません。

 広告会社が自治体の仕事を引き受けることについては、それが適切であれば問題ないと思います。理由は民間企業のうち誰もが知っている企業で、倒産する可能性も低く、また日本のあらゆる会社とパイプを持つ企業はそうはないからです。広告会社であれば、広報の面でも、あらゆるメディアを通じて情報発信できます。大きな予算が適切に使われる前提ではありますが、大きな公共事業を、ガバナンスを守りつつスピード感を持って対応できる企業は多くないのではないでしょうか。民間企業が自治体の仕事を請け負うことも必要だと思います。

――広告会社に対しては、表現やクリエイティブについても議論が起こっています。東京五輪の「総合統括」を務めていたクリエイティブディレクターの佐々木宏氏が、女性タレントを差別的に表現する企画案を提案していたことが『週刊文春』で報じられました。どのように見ていましたか?

 『週刊文春』の速報記事と、本誌の記事とでは中身が違っていたと考えています。速報記事では渡辺直美さんを傷つける表現があったことが拡散されていた一方、本誌では自民党と電通の癒着があり、女性クリエイターの意見を排除していたことが報じられていました。問題が2つに分かれています。

 個人的には佐々木さんがアイデアを出したこと自体は、問題なかったと思っています。それはあくまでクリエイター同士の身内のやりとりだからです。佐々木さんは業界の功労者であり、ぼく個人は彼のことを、その仕事ぶりを含めて尊敬しています。ただ、この場合の佐々木さんの企画は新鮮味に欠けるし、単にタレントを傷つける表現だったとしたら、良くありません。だからこそLINEのやりとりの中で、佐々木さんのアイデアを「それは良くないです」と他のメンバーが指摘し、止めています。実際に私も社内の企画会議で「三浦さん、その企画、面白くありません」「その表現だと傷つく方がいます」と指摘されることは多々あります。

 問題はLINEのやりとりを誰かがリークし、それを『文春』が載せていることではないでしょうか。本誌の記事を読むと、現場には佐々木さんに対して嫌な気持ちを持っている人がいたことが分かります。上司であれ、マネジャーであれ目の前の人に嫌われる仕事をしてはいけないですよね。

 少なくともLINEグループにいた身近な人が、そのプライベートな内容をリークするほど佐々木さんは嫌われていた。彼の日常のコミュニケーションや仕事の進め方を、良く思っていない人がいたことは事実だと思います。だからこそ、自分の立場とは関係なく、目の前の人やチームのメンバーに失礼な対応や必要以上に感情を逆なですることをしてはいけないということが大切なのだと思います。

文春報道から学ぶべきは、目の前の人やチームのメンバーに失礼な対応をしてはいけないというシンプルな結論だ(写真提供:ゲッティイメージズ)

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