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20〜30代若手社員に人気、企業は戦々恐々 最近よく聞く「退職代行サービス」に潜む危険なワナとは働き方の「今」を知る(4/5 ページ)

» 2021年07月05日 05時00分 公開
[新田龍ITmedia]

 「労働組合」が母体の代行業者はその中間に当たる。労働組合は法的に「団体交渉権」を持つため、民間業者では不可能な企業側との直接交渉、具体的には、退職日の調整や有休消化、未払金の支払い要求といった基本的な要求は対応可能なのだ。逆に、会社側が労働組合の交渉要求を拒否した場合、逆にそちらの方が違法(不当労働行為)となってしまうため、交渉においては強い立場にあるといえる。

 ちまたには退職代行サービスについて解説・案内するWebサイトが乱立しているが、実はこの「労働組合型の退職代行サービスが企業側と交渉可能な範囲」についてはかなり不正確なところが多く、注意喚起の必要性を痛感している。

 例えば、とあるサイトでは「未払いの給与請求や残業代請求など賃金の交渉が認められているのは、法的資格を有する弁護士・法律事務所が運営する退職代行サービスのみ」と書かれているし、また別のサイトでは「企業側にパワハラなどの損害賠償を請求したい場合や、逆に企業側から損害賠償を求められた場合には対応できない」といった趣旨の説明がなされている。しかし、これらの解説はいずれも誤りだ。

 具体的には、中央労働委員会によって「損害賠償請求権についての交渉は義務的団交事項」であると判断された例(組合員の健康被害に関する損害賠償請求権についての交渉は義務的団交事項であり、損害賠償請求であることや、別件で訴訟係属中であることを理由とする団交拒否は違法であるとの判断)があるため、労働組合による退職代行においても、損害賠償請求を含めた交渉は可能なのだ。ただし、組合自身が原告となって民事訴訟提起や労働審判申し立てをできるわけではないから、限界はある。その場合には組合員個人は弁護士を代理人に立てて、裁判所での各種申し立てを行うことになろう。

 とはいえ、退職代行の気軽な利用を検討しているユーザーにとっては、損害賠償請求まで至ることはそうそうない。民間業者とほぼ同等の利用料金で弁護士事務所レベルの交渉が可能ならば、労働組合による退職代行は最も利用価値がありそうだ。

「労組=絶対安心」ではない

 労働組合型の退職代行サービスで交渉を希望する場合、利用者は、まず当該労働組合の組合員となり、労働組合が交渉を代行する、という形式をとる。無事退職でき、交渉の成果も得られれば、組合から脱退することも自由、としているところがほとんどなので、組合員となることが差し支えることもさほどないだろう。

 実際、「労働組合が交渉するので合法です」とアピールする退職代行会社も増えてきているのだが、厳密にはこちらでも違法性が疑われるケースがあるので注意が必要だ。それは、「労働組合と名乗っているが、労働組合法における労働組合の定義を満たしていない団体」、すなわち「退職代行サービスをやるためだけに結成した労働組合」の場合である。

 本来、労働組合は「質量ともに労働者が主体であること」という条件がついている。組合の構成員が労働者主体であることはもちろんだが、会社でいうと役員に当たる「執行委員」の多数が労働者でなければ、正式な組合と認められないという判断が労働委員会で出されているのだ。従って、たとえ「○○労働組合」と名乗っていても、退職代行会社の経営者が代表を務めるような労働組合は、本来は適法といえないのである。さらにそういった「名ばかり労働組合」の場合、組合としての団体交渉経験も、労働関係法令に関する知見も乏しいケースが多く、肝心なところで頼りにならないリスクも存在する点には留意が必要だろう。

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