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20〜30代若手社員に人気、企業は戦々恐々 最近よく聞く「退職代行サービス」に潜む危険なワナとは働き方の「今」を知る(5/5 ページ)

» 2021年07月05日 05時00分 公開
[新田龍ITmedia]
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 労働組合連合会「DMU総合研究所」所長、宮城史門氏は、労働組合が退職代行サービスに関わることについてこのように語る。

 「『引っ越し貧乏』という言葉があるが、社員の入れ替わりが頻繁で、『採用貧乏』『退職貧乏』になっている会社も多いのではないか。労働組合というと、すぐに『賃上げ』や『ストライキ』を連想して警戒する経営者が多いが、ブラックな労働環境をそのままにして人材会社や求人広告にお金をかけるよりも、組合と協議して給料や福利厚生にお金をかけた方が、従業員の定着や愛社精神の涵養につながる」

 「多数の従業員を代表して交渉する労働組合があれば、経営陣が従業員全員にヒアリングをするといった手間をかけなくても、的確に労働環境を良くする施策ができる。労働組合は、物の取り合いのための団体ではなく、話し合いのための団体であるということが、もっと理解されてほしい」

「退職届だけ」で済まない世界がある

 本来であれば退職手続きは、退職届を出すだけで済んでしまうことだ。そのやり方を教えずに、わざわざ数万円の費用を徴収してサービス提供するのはいかがなものか、という批判は常になされる。しかし、それでもサービス利用者が確実に存在するという事実は、そうでもしないと言い出せない、今すぐにでも抜け出したいという強い思いと、同じ数だけの劣悪な労働環境が存在するということでもある。

 退職代行サービスを使われた側の企業は、決して逆上したり退職者を恨んだりすることなく、「そこまでして辞めたいと思わせる原因が自社にあったのでは」と反省材料にすべきだし、仕事を放り出して音信不通になられるより、辛うじて代行会社という細い糸でつながり、PCのパスワードだけでも聞き出せたことを幸甚と考えるべきなのかもしれない。

 一方で、わらにも縋る思いでサービス利用しようとする人に対し、単にニーズがあるからというだけで、低品質で違法状態が跋扈(ばっこ)する状況は健全とはいえない。劣悪な労働環境に疲弊した人がまっとうなサービスを選択し、安心して利用できる状態こそ理想であり、単に退職にとどまらず、新たな人生を前向きに生きていく契機となることを願っている。

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著者プロフィール・新田龍(にったりょう)

働き方改革総合研究所株式会社 代表取締役/ブラック企業アナリスト

早稲田大学卒業後、複数の上場企業で事業企画、営業管理職、コンサルタント、人事採用担当職などを歴任。2007年、働き方改革総合研究所株式会社設立。労働環境改善による企業価値向上のコンサルティングと、ブラック企業/ブラック社員関連のトラブル解決を手掛ける。またTV、新聞など各種メディアでもコメント。著書に「ワタミの失敗〜『善意の会社』がブラック企業と呼ばれた構造」(KADOKAWA)他多数。


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